ピアニシモ 


 2018.6.13      精神の均衡を保つための別人格 【ピアニシモ】

                     
ピアニシモ / 辻仁成
評価:3

■ヒトコト感想
転校生の徹が主人公の本作。父親は仕事人間、母親は主体がない、そして孤独な徹は、自分の心の中にもうひとつの人格であるヒカルを作り出す。そこから転校した先でのイジメや、伝言ダイヤルでのサキとの出会い。徹はヒカリとの会話は普通に行うが、社会生活をまっとうにおくれる状態ではない。徹の状況はもしかしたら統合失調症なのかもしれない。

思春期独特の感じ方や、架空の人物を作り上げその人物と会話をする。イジメにあい、そして、その先では父親の自殺がある。形だけの家庭が崩壊し、人格も崩壊してくる。90年代後半の作品なので、今では考えられない独特な文化がある。伝言ダイヤルなどは、そんなサービスもあったなぁというなつかしさを感じてしまった。

■ストーリー
形だけの家庭と敵意に満ちた教室。転校生の僕の孤独を癒してくれるのは、伝言ダイヤルで知り合った少女サキだけだった…。

■感想
頻繁に転校を繰り返してきた徹が、転校先でイジメにあう。家庭内は形だけ家族として存在してはいるが、家族としては機能していない。父親は日夜土日関係なく仕事にまい進する。そのため、徹とはほとんど顔を合わすことはない。

精神的に不安定な徹は、心の中にヒカリという別人格を作り上げる。徹とヒカリはまるで友達のように二人で行動する。読者はヒカリの存在を徹が作り上げた架空の人物だと気づくのは少し後になる。徹の性格的な異常性が少しづつあらわとなる。

転校先では、異様なクラスメイトたちになじめずイジメにあう徹。エスカレートするイジメに対しては、心が崩壊するほど影響を受ける。イジメの激しさもそうだが、徹の前にイジメのターゲットとされていた者が、自分がイジメられないために徹を攻撃する。

イジメの定番的な流れかもしれない。そして崩壊する家族。徹が家に帰ってくると、父親が団地から飛び降りて自殺していたと知る。まさに崩壊した家庭の状況が、外部に対してあらわになったという感じだ。徹の家族の状況はとてつもない。

強烈なインパクトはないのだが、時代を感じさせる作品であることは間違いない。伝言ダイヤルで出会った少女のサキ。伝言ダイヤルの描写があちこちにあり、なつかしさを感じた。まだSNSやツィッターがない時代では、伝言ダイヤルは知らない男女が出会うための便利なツールだったのだろう。

精神的に不安定な高校生を描いた作品だ。ある程度想定の流れではあるし、イジメの描写も使い古された印象だ。それでも、徹がヒカリを作り上げ、精神の均衡を保っているのは物語として伝わってきた。

独特の雰囲気のある作品だ。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp