大鹿村騒動記


 2019.6.26      駆け落ちした妻が認知症となり戻ってくる【大鹿村騒動記】

                     
大鹿村騒動記 [ 原田芳雄 ]
評価:2.5

■ヒトコト感想
歌舞伎の伝統を守ろうとする村に騒動が巻き起こる。村歌舞伎の主役をはる善だが、公演の前に駆け落ちした妻が戻ってくる。この戻ってきた理由が衝撃的だ。夫のことを思い戻ってきたのではなく、妻が認知症になりかけているからと、浮気相手が返しにきたからだ。当然、善は怒り狂うのだが、なし崩し的に妻と再び生活することになる。

人が良すぎる善。歌舞伎の伝統が守れるのかという危機感と、認知症の妻というやっかいごとを抱えた善。そこに巨大台風がやってくることで、ドタバタはさらにヒートアップする。認知症の妻の行動が突飛ではあるが、善はそれらをすべて引き受けている。ぶっきらぼうな言葉の数々だが、端々には愛を感じる流れだ。

■ストーリー
原田芳雄の遺作となった群像劇。村歌舞伎の伝統が守られている大鹿村。シカ料理店の主人・風祭善は長年主役を張ってきたが、私生活では妻に逃げられ18年間ひとり暮らしの日々。そんな村に公演が5日後と迫ったある日、妻が駆け落ち相手と村に戻り…。

■感想
大鹿村で巻き起こる騒動。シカ料理店の主人である善は、歌舞伎の主役をはっている。公演が近づくにつれ緊迫感は増してくるのだが…。そこに駆け落ちしたはずの妻が戻ってくる。なぜ妻が突然戻ってきたのか。理由は妻が認知症を発症したため、不倫相手が面倒を見切れなくなり手放したということだ。

怒り狂う善。しかし、結局は妻だからと面倒をみることを決意する善。善は周囲に憎まれ口をたたくのだが、根は良い奴だ。認知症の妻と善のやりとりが物語の面白ポイントだ。

村歌舞伎の伝統を守るために、善は主役をやりきる必要があるのだが、認知症の妻の面倒を見なければならない。シカ料理店を切り盛りしつつ、歌舞伎の主役をはる、そこに妻の面倒まで追加されると善はすべてがいっぱいいっぱいになる。

ただ、作中ではその悲壮感がコメディチックに描かれている。妻の認知症についても、ちょっと面白可笑しく描かれているのが良い。村歌舞伎が行われる前日に、超巨大な台風がやってくる。村人たちは右往左往するのだが、善の妻の姿も見えなくなる。

強烈なインパクトはないのだが、村歌舞伎をやりきろうという必死さが伝わってくる。善の妻と駆け落ちした幼馴染の治は最低だ。その後も村に住み続け、ついには善の妻の父親と普通に会話していたりもする。

治には治の苦しい事情があるのはわかるのだが、駆け落ち相手の旦那がいる場所に戻ってくる神経が知れない。それも相手が認知症になったから面倒見切れないという超最低な理由だ。ここまで最悪な人物ではあるが、なぜかそこまで憎めないのは物語全体のコメディタッチのせいだろう。

村歌舞伎を絶やさないための強烈な信念を感じる作品だ。



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