音楽が終わった夜に 


 2020.1.21      才能に満ち溢れた人物 【音楽が終わった夜に】

                     
音楽が終わった夜に
評価:3
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■ヒトコト感想
作家辻仁成のバンド時代のエッセイ集。作者がエコーズというバンド活動をしていたのはうっすらと知っていた。驚きなのは小説家として成功する前にバンドマンとして成功し、その後まったく違う分野である小説家としても成功していることだ。2つの異なる分野でその才能を示すというのは普通ではない。

作中ではプロになる前にどのような活動をしていただとか、金がないバンドマンの苦しみなどが描かれている。バンドブームの前に、早くからバンドマンとして成功した作者。バンド内でのメンバーの入替や売れるバンドと、売れずに解散していくバンドなど、バンドの厳しさも描かれている。エコーズの活動を終え、その後小説家に転身する。ここまで才能に満ち溢れた人はいないだろう。

■ストーリー
コンサートが始まる直前の、あの昂ぶりが心地よかった。生活のささやかな出来事を呪文のように並べた歌が好きだった。やがて音楽が終わり、アンコールの手拍子に呼び戻される瞬間が嬉しくてならなかった。みんな、革ジャンの下は素肌で生きていた。夢だけは手放さなかった。ロックの輝きに無垢な魂を燃やして…。’80年代のロックシーン、ひたむきな情熱の光と影を、等身大に活写する。

■感想
ロックバンド「エコーズ」のボーカルとして大成した辻仁成。作家となった現在では、エコーズ時代をエッセイとして描いている。始まりがバンドということに驚いた。バンドマンというのは知性がなく本なんて読まない、音楽一筋の人種かと思っていた。

それがロックバンドとしても成功し、武道館でコンサートまで開いている。そこから小説家への華麗なる転身。二つの才能を持ち合わせていたということには、驚かずにはいられない。バンドとしての知名度は、今でもカラオケにあるくらいなので、相当成功した部類に入るのだろう。

ロックバンドとしてプロになるための苦悩がエッセイとして描かれている。一握りしか成功しない世界。バンドブームの前なので、成功したとしても手に入る給料は微々たるもの。バンド活動をしながらバイトをするという生活を続けている。

当然ながらバンドメンバーの入れ替わりもあり、腕がない者を外すため、どのようにして相手を傷つけずに言い出すかに苦悩している。他のバンドとのイザコザや、金がないからホテルの部屋で酒を飲むだけの生活など、貧乏バンドマンの悲哀が描かれている。

血の気の多いバンドマンとしての活動の他に、バンド活動中に小説家としての素養も見せている。バンドとして成功したら、その後も、なんらかの音楽活動に専念するかと思いきや…。いきなり他の分野に転身するのはすごすぎる。音楽では食えない時代。かと言って小説家で食えるかというと微妙だろう。

ただ、どちらもクリエイティブな仕事であることは間違いない。駆け出しのロックバンド時代での面白おかしいエッセイや、バンド内のゴタゴタなど、ちょっと笑えるエッセイも含まれている。

作者の才能のすごさには驚かされるばかりだ。



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