物置のピアノ


 2021.8.10      春香の健気さと可愛らしさは印象的だ【物置のピアノ】

                     
物置のピアノ [ 芳根京子 ]
評価:3

■ヒトコト感想
震災後の福島での複雑な姉妹関係を描いた作品。福島の田舎町で高校生として将来に悩む春香が主人公だ。春香の家は桃農家ではあるが、東日本大震災の風評被害に悩んでいる。優秀で何でもできる姉の秋葉と何かと比較される春香。ピアノだけは春香の方が秋葉より優れている。

姉妹の複雑な関係がポイントなのだが、仮設住宅で暮らす転校生や、実は春香の下には弟がいたのだが、事故で亡くしていたなど、複雑な状況が描かれている。春香は純粋にピアノが好きなのだろう。秋葉がピアノ嫌いとなり物置にピアノが移されたとしても、そこで毎日ピアノを演奏している。ある日、秋葉が家に帰ってきたことから、春香の心境も変わっていく。設定上は秋葉の方が美人という描かれ方をしているが、春香の方が美少女感は強いように感じた。

■ストーリー
福島県桑折町(こおりまち)。春は鮮やかな桃の花が咲き誇り、夏は見渡す限りの田園が彼方まで続く 自然豊かな町。2011年3月11日の東日本大震災発生。それにともなう福島第一原子力 発電所の事故は 福島県内の市町村は放射能という目に見えないものに翻弄される日々を送っていた。この物語の舞台は桑折町のひとつの桃農家。 2012年7月。あの震災から一年後の夏。 高校三年生の宮本春香が奏でるピアノは薄暗い物置の中から 夏草の薫りの中に溶け込んでゆく―。

春香には東京の大学に通う姉・秋葉がいた。優秀で何でも出来る美人な秋葉。それに 比べて臆病で 意気地なしで不器用なダメな自分。 そんな春香にとって物置が唯一の心安らぐ場所であり、世界の中心だった。 家庭の話題は風評被害によって売れない桃。そして役場に 勤める父・賢一の復興会議の話。 春香は高校三年の夏休みを迎えるというのに進路を決めかねていた。

失った命への家族それぞれの思い、風評被害と後継ぎ問題で揺れる桃農家の現状 、高校生としての将 来への不安と原発事故により、浪江町から避難し、桑折の仮設住宅で暮らす転校生との恋。 そして、秋葉との衝突…。その渦中で思い悩むが、何もせず物置でピア ノを弾き続ける事しか出来ない自分…。 そんな春香の中で何かが変わろうとしていた。

■感想
両親とおじいちゃんと春香が暮らしている福島の田舎に、東京の大学に通っていた美人で優秀な姉の秋葉が帰ってきた。秋葉は春香がピアノをやっていることを気に入らないようなそぶりすらある。ピアノのコンクールで春香が金賞、秋葉が銀賞をとったことがあり、そこから秋葉はピアノを辞めてしまった。

春香からしたら自分のせいで秋葉がピアノを辞めたという思いが強いのだろう。それ以外にも明るくおしゃれな秋葉と対照的に春香は自らが地味になるようにしているようなそぶりすらある。

福島の復興を支援するような作品なのだろう。桃農家ではあるが、放射能汚染されているという風評被害から桃が売れないことを嘆く場面もある。また、浪江から引っ越してきた転校生は仮設住宅で生活しており父親の仕事が決まらずに親子関係が険悪になる場面もある。

ひたすら物置でピアノを弾き続ける春香。高校生として将来に不安をもつ春香。転校生とちょっといい感じになるが、春香は自分に自信がもてないタイプなのだろう。少し引っ込み思案なところがあり、積極的になれていない。

ラストは秋葉と春香のピアノの連弾がある。春香は姉にコンプレックスをもっており、秋葉は春香にピアノのコンプレックスがある。お互いが、誤解していた部分もあり険悪な雰囲気となっている。秋葉は派手で美人なので人気者の秋葉と地味でおとなしい春香という図式なのだが、見た目は春香の方が美人のような印象を受けた。

化粧をした春香は見違えるようにきれいになる。恋愛的な要素は少ないのだが、それなりに姉妹の誤解から発生したゴタゴタがメインの作品だろう。

春香の健気さは印象的だ。



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