MISSING 失われているもの 


 2021.5.16      作者の実体験のような… 【MISSING 失われているもの】

                     
MISSING 失われているもの [ 村上龍 ]
評価:2.5
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■ヒトコト感想
主人公の小説家は一部は作者を投影しているのだろう。福生で生活し米軍基地が身近にある。精神的に不安定となった主人公が目にしたのは、この世のものではない経験だった。女に連れられすでに閉店したはずのバーに向かう。女の話す言葉は、主人公の精神の言葉を反映している。混乱と不安の世界の中で母親が登場してくる。

本作が作者の実体験とは思えないのだが、個性的な小説家というキャラ付けはどうしても作者とダブるものを感じてしまう。強烈なのは、母親の朝鮮での経験だ。日本が戦争に負け、それまで奴隷のように扱ってきた朝鮮人たちからの暴行を受ける。母親の両親が朝鮮人たちに穏やかに接していたため、暴行を受けずにすんだのだが…。読んでいて不安な気持ちになる作品だ。

■ストーリー
この女優に付いていってはいけない――制御しがたい抑うつや不眠に悩んでいた小説家は、混乱と不安しかない世界に迷い込み、母の声に導かれて迷宮を彷徨い続ける。

■感想
主人公は成功した小説家だ。金と女に不自由のない生活を続けてきた小説家が、精神が不安定になり、幻想の世界に入り込む。過去に知り合った女優とふたたび出会い、すでに閉店したバーへと連れてこられる。まるで死者との会合のように、死んだ者たちと会話をする。

主人公の母親が登場したタイミングで、主人公の子供時代が語られる。個性的な子供として描かれており、教師をしていた母親からは、今までの教え子の中にもいないほど優秀だとべた褒めする。どうしても作者の実体験なのかと勘繰ってしまう。

母親との会話では、主人公の心の思いを母親から代弁されるような描写がある。どのような少年時代を過ごしてきたのか。主人公のことだけでなく、母親が幼少期にどのような経験をしてきたかも語られている。

戦時中に朝鮮で生活していた母親は、日本が戦争に負けたからと、佐世保に移住することになる。なんとなくだが、ここまで読まされていると作者の母親の実体験が盛り込まれているのでは?と思えてくる。死者との会話と思われる場面もある。精神的な不安定さがかなり伝わってくる。

制御しがたい抑うつ症状に悩まされる主人公。作家として売れっ子となり、様々な女性と付き合い、金も自由に使える。そんな状態であれば、次に目指すものはどのようなものなのか。売れっ子作家で贅沢な暮らしをし、高いワインを飲み美しい女性と付き合う。

それらすべては作者のイメージと重なる部分がある。ただ、そこには幸せいっぱいで人生を謳歌しているというよりは、どこか満たされないまま精神的に壊れていくような雰囲気すら感じてしまう。

どこか作者自身の心が病んでいるような気がした。



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