ミラクル 


 2020.10.15      母親が生きていると教え込まれた子供 【ミラクル】

                     
ミラクル / 辻仁成
評価:3
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■ヒトコト感想
シドとアルの親子の物語。シドは妻が死んだことを認めることができず、子供であるアルにまでママは生きている、仕事でいないだけだ、と説明している。それを真に受けたアルの苦悩が描かれている。ちょっとした感動物語となっている本作。

常に会ったことのないママのことを想像するアル。常に自分の身近にいる幽霊を見るようになり、ママの存在を聞く。ママとはなんでも許してくれる存在らしい。アルはその辺を歩いている女の人に「自分のママなのか?」と聞いて回る。異常な状況ではあるが、アルが大人となり、すべてを理解したあとの最後の流れは感動的だ。子供にとってママとは非常に重要なものなのだろう。ママと出会うことがアルにとってどれだけ重要なのかわかる物語だ。

■ストーリー
僕の名前はアル。ジャズピアニストのパパと南へ向かって旅を続けている。僕はママを知らない。だけど、きっとどこかにいる。いつもどこでも僕はママを探しているんだ―。大人になってなくしてしまったものをもういちど見つめてみませんか?すっかり大人になってしまった、かつての子供たちへ贈る、愛しくせつない物語。あたたかな文と絵でお届けする、優しい気持ちになれる一冊。

■感想
シドは妻を失った悲しみに耐えきれず、自分の中では妻が生きていると思い込むことにした。それでも妻を失った悲しみに耐えきれず、酒が手放せない生活となる。ピアニストのシドの苦悩が描かれている。シドの苦悩と同様に、息子のアルに対してもママは生きていると伝えてしまう。

シドのこの一言により、アルは常にママの幻想を追いかけることになる。アルはママを一度も見たことがない。そのため、ママとはどんな存在なのかもわからない。身近に謎の2人の幽霊を見るようになり、その幽霊と会話を始めるアル。

中盤ではママを追い求めるアルの姿が強烈に描かれている。ママとはなんでも許す存在と知れば、その辺の女の人に対してママかどうかを聞いたりもする。周りの女性たちは、突然小さな男の子から、自分のママですか?と聞かれると困惑するだろう。

アルは、ママはなんでも許してくれる存在ということで、わざといたずらをしてママに許されることを期待するなど、不思議な状況となる。アルはママを求め続けているのだが…。似たような経験をした少女に、アルは大人にならなければならない、と忠告されてしまう。

シドはアルに対して、雪が降ればママが帰ってくると伝えていた。ある日、外は季節外れの雪となり、アルはママの帰りを期待する。ここでシドは困り果てて恋人にアルのママのふりをしてもらうよう頼むのだが…。帰ると…。ここからのアルの対応がすばらしい。

大人になったアルは現実を見つめつつも、シドたちに対する心遣いも見せる。感動の流れであることは間違いない。子供にとって母親というのは絶対的な存在なのだろう。母親が死んだという事実を受け入れるのは、アルが大人になったということだ。

中編だが、アルの心境の変化がしっかりと感じとれる作品だ。



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