迷子のままで 


 2021.3.20      偏見をうける除染作業員 【迷子のままで】

                     
迷子のままで [ 天童荒太 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
ふたつの短編からなる本作。「迷子のままで」と「いまから帰ります」それぞれにテーマがある。迷子のままでは、虐待される子供と、家族に関係する者たちとの物語となっている。連れ子を伴う再婚というのは難しい。いくら再婚相手に子供がなついていたとしても、何かをきっかけとして本当の父親ではない、ということを理解しそこから壁ができる可能性もある。

子供が壁を作り始めると、父親の方もちょっとしたことできつくあたってしまう。子供が見せるあからさまな拒否というのは、大人だとしても瞬間的な怒りとなり、やりすぎてしまう場合がある。本当の父親は、自分の子供が再婚相手の父親に殺されたと連絡を受けどんな感覚なのだろうか。。

■ストーリー
津波で失われたはずの手帳。行方不明のまま永い時を経た少年からの伝言。そこからは強いメッセージが発信されていた。騙されるということ自体が一つの悪なのだ。やられっ放しで判断力を失う前にやれることがある。僕たちはもう迷子のままではいられない。やけに心に沁みる、再生の歌ふたつ。

■感想
「迷子のままで」は強烈だ。家族関係が描かれている物語だ。再婚相手の連れ子に対して愛情がもてず手を出してしまう義理の父親。その結果として…。夫婦関係がうまくいかないと、そのイライラは子供に行くことがある。

子供からしても、本当の父親ではないという意識があるので、義理の父親に対してなつくことはない。もうこの状態になると親子ともども辛いのだろう。実の父親は子供のことを知らないが、人づてで自分の子供が虐待により死亡したと知る。その瞬間の本当の父親の心境というのは想像するのは難しい。

「いまから帰ります」は東日本大震災後の福島で除染作業を行う作業員のそれぞれの事情を描いた作品だ。ちょっとしたラブストーリー的な展開もある。ベトナムから金を稼ぐために作業員として働く。リーダーは中国人ではあるが日本人と結婚しており、ヘイトを恐れ偽装離婚をしていたりもする。

ベトナムの青年は、ベトナム料理の店で同郷の者と出会い、除染作業が危険だからベトナムに帰るように言われたりもする。偏見に苦しむ外国人が描かれている。

除染作業は日ごろから厳しい偏見にさらされている。そんな中でも映画好きの青年のエピソードはほっこりしてくる。津波の際に拾った手帳の持ち主を探す。手帳の中には単館映画の情報が書かかれている。そこから映画に興味を持ちはじめる。

除染作業が休みの日に、映画を見に行こうとしたのだが、そこで手帳の持ち主と思わしき女性と出会うのだが…。運命的な物語だ。津波で生徒手帳が流された。その持ち主は死んでおり、偶然、持ち主の妹と出会う。ありきたりかもしれないが、運命的な出会いは面白い。

個性的な2つの短編だ。



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