クジラアタマの王様 


 2020.2.9      ネット上の炎上を揶揄する流れ 【クジラアタマの王様】

                     
クジラアタマの王様 [ 伊坂 幸太郎 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
製菓会社に勤務する岸が経験する奇妙な物語。冒頭からヘンテコな漫画が差し込まれ、最初は意味がわからなかった。それが実は岸たちが見た夢だとわかる。夢の内容はまるでRPGのように、それぞれが独自の職業となり武器をもち怪物と戦う夢だ。まるでドラクエのようにメンバーを集めて怪物退治を依頼され、実行する。夢は現実とどう関係するのか。

同じような夢を見た人物が登場し、それぞれで会話することであるひとつの結論へと至る。夢で怪物に勝利すると、現実での困難も良い方向へと動いていく。逆に怪物にやられてしまうと、現実でもとんでもない状況へと陥る。岸が直面するのはちょっとヘンテコでありえない状況だ。ただ、夢と微妙にリンクしているのが妙に面白い。

■ストーリー
製菓会社に寄せられた一本のクレーム電話。広報部員・岸はその事後対応をすればよい…はずだった。訪ねてきた男の存在によって、岸の日常は思いもよらない事態へと一気に加速していく。不可思議な感覚、人々の集まる広場、巨獣、投げる矢、動かない鳥。打ち勝つべき現実とは、いったい何か。

■感想
岸は製薬会社に勤務し広報担当として奮闘していた。まず最初のトラブルがマシュマロへの遺物混入だ。謝罪会見で、部長が炎上するようなことを口走る。その結果、後始末に駆り出された岸たちは必死に処理しようとするのだが…。

明らかに現在の行き過ぎたマスコミの報道や、少しのミスも許さない一般人の過剰反応、そしてネット上での炎上を意識している。作者的には、これらの行き過ぎた行為の数々については、明らかに批判めいたことを暗示させる流れとなっている。

炎上が発生した場合には、どのようにして鎮めるのか。岸が無事、事態をおさめることができたのは、夢で怪物に勝利したからなのか。同じく怪物に敗北した議員は、自分の妻が狂言クレーマーとなっていたことで一気に炎上してしまう。

このあたりも、政治家のちょっとした発言の不備や身内の粗相により、失脚させられたりする流れを揶揄しているようだ。RPGのように仲間を集め怪物を退治しに行く。挿絵の漫画が妙にほのぼのとしたものなので、怪物との対決も生きるか死ぬかというような緊迫感は伝わってこない。

パンデミックや政治家の不正、そしてマスコミとネットの炎上。それらすべてが交わった作品なのだろう。さらに言うなら、新型インフルエンザが日本に入りこむのをどのようにして防ぐかに躍起になり、最初の感染者に対して必要以上に神経質になる風潮も揶揄している。

作中でも現実と同じように、海外に行ったことを否定されたりもする。その後に同じように感染者が増えれば気にならないことではあるが、最初ということで多方面から叩かれることになる。

夢と現実のリンクが微妙なところに面白さがある。



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