2021.2.8 現代のわらしべ長者だ 【幸運の25セント】
幸運の25セント硬貨 新潮文庫/スティーヴン・キング
評価:3
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■ヒトコト感想
スティーヴンキングの短編集。印象的なのは表題作でもある「幸運の25セント」だろう。25セントのチップから始まる物語。ホテルのメイドがチップとして得た25セントを使い、軽い気持ちでカジノに挑戦すると、あれよあれよという間に大金に膨れ上がっていく物語だ。
そのほかに、理不尽な恐ろしさに満ちているのは「ゴーサム・カフェで昼食を」だ。妻に離婚を突き付けられ、困惑した思いで、妻と妻の弁護士と話し合うためのカフェに向かったのだが…。突如として日常が狂気に様変わりする。男の混乱と周りの慌てぶりが伝わってくる。狂気に走る者に対しては、その理由が語られることはない。日常で突然異常者に出会った場合、人はどのような反応を示すのか。。
■ストーリー
ベッドの枕に置かれた封筒。中には祝福の手紙(「きみはついてるな!」)と25セント硬貨。チップとも呼べない少額すぎるそのコインが、ホテルのメイドにもたらした幸運とは…市井の普通の人間に訪れた特別な瞬間を、名人芸の手業で描いた標題作ほか、天才キングが十年をかけて、瞬間瞬間の全精力を傾注して彫琢した傑作揃い、意外な結末ばかりの全七篇。全篇キング自身の解説つき。
■感想
「道路ウィルスは北へむかう」は、偶然手に入れた絵が恐ろしい現実を突きつける物語だ。よくある絵の中の人物が動いているというパターンだ。絵を捨て去ろうとしても戻ってくる。恐怖の絵が元凶であるのは間違いない。偶然手に入れたことを後悔し、ひそかに誰かに手渡せないかを考え続ける男。
絵の中の人物に殺されるパターンなのだろう。次に見た瞬間には絵の中の人物の腕に見えている入れ墨の構図が変わっている。じっくりと少しづつ絵が動いているその描写が恐怖を増幅させている。
「ゴーサム・カフェで昼食を」はそのポップなタイトルからは想像できない恐ろしい物語だ。妻と離婚したくない男は、相手の弁護士と戦う気満々でカフェに向かう。相手の弁護士はいけすかない奴だ。ここで弁護士との対決かと思いきや、深刻な話し合いを邪魔する人物がいた。
それはカフェの店員だった。よくわからない言葉を口にしつつ騒ぎ始める。エリート弁護士は怒りの表情で店員に詰め寄るのだが…。次の瞬間には腹部を包丁で刺され、その後、脳天に包丁をぶっ刺されてしまう。この店員の突然の狂いっぷりが恐ろしい。
「幸運の25セント」はホテルのメイドが手に入れたわずか25セントのチップが大金へと変わっていく物語だ。わらしべ長者とは違うが、現代のわらしべ長者なのかもしれない。スロットで25セントをかけて、十数ドルにまで増える。
ただ、この段階では子供にゲームを買ってあげたりもできない。そもそも貧乏なメイドは、子供のために必要なものを買ってあげることができずに苦しんでいた。ある意味、自暴自棄でもともとは25セントだからと、思いきって手に入れたドルをすべてカジノで賭けてしまうのだが…。
スティーヴンキング独特の短編集だ。
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