岸辺の旅


 2018.8.22      白玉ぜんざい作りで怒りを解消 【岸辺の旅】

                     
岸辺の旅 [ 深津絵里 ]
評価:2

■ヒトコト感想
奇妙な夫婦の二人旅の物語。終始暗い雰囲気にあふれている。3年間失踪していた夫が突然帰ってきた。見た目普通だが、夫は死んでいるという。死者と共に、夫が過去過ごした時間をめぐる。夫婦が訪れるのは新聞配達員や、中華料理屋など、夫が昔そこで仕事をしていた場所だ。中には夫と同じように自分が死んだことに気づかず以前と同じように仕事をしている者もいる。

非常に特殊な状況だ。心霊映画というのではなく、純粋に死んだ人たちに対して、その思いの強さが現世で以前と同じように行動させる。哀れみを誘うような作品ではない。恐怖を誘うものでもない。死んだ人間が当たり前のように目の前にいるというのに違和感がない状態というのも恐ろしいのだが…。

■ストーリー
3年間失踪していた夫が突然帰ってきた。だが、夫は「俺、死んだよ」と妻に告げる。そして、夫が過ごした時間をめぐる、夫婦ふたりの旅がはじまった。夫の優介がこれまでにお世話になった人々を訪ねて歩くふたり。旅を続けるうちに、妻の瑞希と優介はそれまで知らずにいた秘密にも触れることになる。お互いへの深い愛を、「一緒にいたい」という純粋な気持ちを感じ合うふたり。だが、瑞希が優介を見送る時は刻一刻と近づいていた--。

■感想
失踪した夫が戻ってきたと思ったら、夫は死んでいた。見た目は変わらないのだが実は死んでいた。妻は夫が失踪中に過ごした場所へふたりで訪ねて回ることになる。ここで、訪ねた先では夫と同じように死者が普通に仕事をしていたりもする。

この世に未練を残したからなのか、それとも仕事に強い責任感をもっていたからなのか。死者がこの世に残るにはそれなりの理由がある。その理由が解消されると、死者は消え去り、死者が生活していた場所は、元通り一気に荒廃してしまう。

夫が元医者で不倫をしていた。このあたり夫婦関係は微妙だ。妻が、夫が失踪中も不倫相手のことを思うと怒りで気持ちを保つことができた、と言うシーンは印象的だ。男とだったらこのような感情にはならないだろう。夫婦の関係としてはある意味崩壊している。

それでも、失踪した夫が自分の元に帰ってきたことに妻はうれしいのだろう。夫が平然と浮気は遊びだったと言うあたりも、ドライで良い。死者と共に旅をすることにどのような意味があるのか。教訓めいたことを感じずにはいられない。

死者と共に旅をすると、いつその死者がいなくなるか気が気ではないのだろう。妻があるポイントでは必ず夫がいなくなっているのではないかと不安がってあたりを探し回る。このあたりは複雑だ。相手が死者だとわかっていながら、いつまでも一緒にいることはできないと知りながら…。

妻が怒りにまかせて夫の好物である白玉ぜんざいを作るシーンがものすごく印象的だ。不倫相手の女に強烈な一言を浴びせられ、その怒りをぶつけるように必死に白玉粉を混ぜる。女の怒りを感じずにはいられない場面だ。

本作の状況を理解するには、豊富な人生経験が必要だろう。



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