火刑都市 


 2022.1.6      ミステリアスな謎の女 【火刑都市】

                     
改訂完全版 火刑都市 (講談社文庫) [ 島田荘司 ]
評価:2.5
島田荘司おすすめランキング
■ヒトコト感想
序盤、中盤、終盤で印象が大きく変わるミステリー作品だ。序盤では若いガードマンの死に関わると思われて女の存在がミステリアスであった。直前まで同棲していながら、その痕跡を一切残さずに消え去った女。極めつけは男が実家に出した手紙の中身を黒塗りして消したりもしている。女のミステリアス感から、連続放火魔の存在へとつながっていく。

女を巡る争いなのだが、放火魔の動機や事件の仕組みについてはイマイチな印象だ。それまでの、存在するかも不明な女のミステリアス感は、女の実家に訪れ、その正体が判明した時点で終わっている。残りの放火魔のミステリーについては、ごくありきたりな展開かもしれない。推理を行う人物がごく普通の警官というのも特別感を感じない要因なのかもしれない。

■ストーリー
東京、四谷の雑居ビルの放火事件で若いガードマンが焼死する。不審な死に警察の捜査が始まった。若者の日常生活に、かすかに存在した女の影……。女の行方を追ううちに次は赤坂で放火が。そして現場に“東京”と謎の文字が書かれた張り紙が! 索漠たる都市の内奥と現代人の心を見据えて本格推理の天才が描く、印象深い長編ミステリー。

■感想
雑居ビルでガードマンが焼死した。大量の睡眠薬を飲んだ状態だったため、火事に巻き込まれての死亡事件だった。男の日常生活には結婚を考えた女がいたはずだったのだが、その痕跡が何一つ残っていない。事件のカギを握るのはこの女で間違いないのだが、周りの知り合いや友達は誰も女の本名を知らない。

部屋の中にもその痕跡は何一つない。男が親に出した手紙で女に関する記述があると思われる個所は、なぜか黒塗りされている。まさに序盤はこの女が本当に存在するのか?どのようにして痕跡を消したのかがポイントとなっている。

女の捜索は本作のメインのひとつかもしれない。微かな手掛かりを元に女を探し出そうとする中村刑事。女の実家を探しだすことができたのは、ちょっとした偶然の要素が強いのだろう。そこから、真の犯人に繋がる形となる。

この放火魔の存在が、そこまでミステリアス感はない。特別な要素はないのだが、放火魔として不思議さはない。謎の女との関係が明らかになると、そこから犯人の目的が明らかとなる。放火の仕組みについてもそこまで不思議ではない。

推理する側と犯人側のミステリアス感が弱いと物語としてのインパクトに欠けるかもしれない。どこまで魅力があるキャラかというと。謎の女の存在については、興味を惹かれるものがあるのだが、それに比べると放火魔の存在は微妙かもしれない。

ということで、後半に向かうにしたがって物語のテンションが下がっていくような感じだ。強烈なインパクトはないのだが、放火の仕組みが多少トリックとしてあるだけで、ミステリーとしての魅力は低いのかもしれない。

強烈なインパクトはないが、序盤の謎の女の存在は不気味だ。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp