2020.2.23 自分をイジメた男を刑務所の中で観察 【海峡の光】
海峡の光 (新潮文庫) [ 辻仁成 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
刑務所の看守の斉藤の物語。少年時代に優等生で、斉藤に陰湿ないじめをくりかえしてきた花井が、囚人として斉藤の刑務所にやってきた。そこから、斉藤の人生を振り返るように物語がすすみ、花井の刑務所内での奇妙な行動が描かれている。元優等生の面影なくみじめな花井。斉藤は圧倒的な立場の違いを利用し花井を観察する。
花井がどのような心境で刑務所生活を送っているのかはわからない。少年時代に裏では陰湿な行為を繰り返していた花井は、刑務所内でもその片鱗を見せつつある。刑期満了する前に出所するチャンスがあったが、花井はあえて問題を起こし刑務所に居続けようとする。最後まで花井の奇妙な心の動きは理解することができなかった。
■ストーリー
廃航せまる青函連絡船の客室係を辞め、函館で刑務所看守の職を得た私の前に、あいつは現れた。少年の日、優等生の仮面の下で、残酷に私を苦しめ続けたあいつが。傷害罪で銀行員の将来を棒にふった受刑者となって。そして今、監視する私と監視されるあいつは、船舶訓練の実習に出るところだ。光を食べて黒々とうねる、生命体のような海へ……。海峡に揺らめく人生の暗流。芥川賞受賞。
■感想
優等生だった花井が傷害の罪で刑務所にやってきた。看守である斉藤は、少年時代に花井に陰湿ないじめを受けていた。花井は外面はよく、あからさまないじめの行動にはでない。ただ、皆を扇動する形でターゲットである斉藤をじわじわと追い詰めていく。非常に嫌な奴だ。
そんな花井の陰湿な部分を知る斉藤は、老婆に対してのひどい扱いや、がりがりに痩せた仔猫にえさを与えず餓死させようとするなど、優等生の仮面をかぶった悪魔だということは想像できた。
看守である斉藤の目から見た花井は典型的な模範囚となっている。斉藤の人生を振り返りながら、元函館連絡船の客室係である斉藤自身が自分の人生と照らし合わせながら花井を見る。斉藤の人生も複雑だ。
同級生が連絡船から飛び降りて自殺するなど、明るく楽しい人生を送ってきたわけではない斉藤。じっとりとした雰囲気の中で、夢も希望もないような斉藤が、ただ立場の強さを利用して、落ちぶれた花井をひっそりと観察する。花井が斉藤のことに気づいていないのもポイントかもしれない。
花井の心境は伝わってこない。優等生で勉強も真面目に行い、刑務所内での資格試験にも合格間違いなしと言われていたのだが…。あえて落ちるように仕向けたとした思えない結果を出す。その後、刑期が短縮され出所する日が近づくと、花井は暴れ始め刑期が延長されたりもする。
後半では、花井は斉藤に対して刑務所の中が心地良いというような言動をする。この異常さというのは常人では理解できない。花井もそうだが、安全な位置で花井を観察し続ける斉藤に対しても異常さを感じずにはいられない。
函館の海の寒さと暗さが物語全体の陰鬱なトーンとマッチしている。
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