怪物はささやく


 2020.9.11      病気の母親が助かるという幻想【怪物はささやく】

                     
怪物はささやく [ シガニー・ウィーバー ]
評価:3

■ヒトコト感想
不治の病を抱えた母親と12歳の少年コナーの物語。冒頭、コナーが見る悪夢は衝撃的だ。母親の立つ地面が崩れ、母親が穴に落ちるのをコナーが必死に捕まえようとするのだが…。コナーの精神的な不安定さは怪物を生み出す。その怪物はコナーに真実を話すように告げる。前段として怪物がコナーに語る物語は衝撃的だ。何か、このあとの出来事を暗喩しているような内容となっている。

コナーの不安定さはすさまじく、学校でのいじめや祖母との関係もすこぶる悪い。家の中では突然癇癪を起し部屋の中をめちゃくちゃにしたりもする。コナーの精神の不安定さはどこにあるのか。母親の症状がまったく改善しないことに苦しむコナー。怪物の話す物語が現実にリンクしているのが強烈だ。

■ストーリー
12歳の少年コナーは、難しい病を抱えた母親と2人で裏窓から教会の墓地がみえる家に住み、毎夜悪夢にうなされていた。ある夜、コナーのもとに怪物がやって来て告げる。「今から、私はお前に3つの【真実の物語】を話す。4つ目の物語は、お前が話せ。」しかも怪物は、コナーが隠している“真実"を語れと迫るのだ。頑なに拒むコナー。しかしコナーの抵抗など意にも介さず、その日を境に夜ごと怪物は現れ物語の幕が上がる―。

■感想
夜な夜な怪物の悪夢を見るコナー。それがエスカレートすると現実でも怪物を見るようになる。この怪物は、まるで木が巨大化して手足がでたようなものだ。怪物が語る物語は、現実の病に苦しむ母親の状況に似ている。コナーが悪夢を見る原因は何なのか。

コナーは学校でいじめられている。確かにクラスメイトからすると何を考えているかわからない異質さがコナーにはある。いじめられることにもコナーは慣れているようにも見えてくる。相手にされるうちが花なのか。その後、透明人間扱いされ、ブチ切れ、いじめっ子に殴りかかる場面は衝撃的だ。

コナーは母親の病気が良くなると考えている。厳しい現実から目を背けているのだろう。怪物が語る、なんでも治せる治療薬を使い、母親を治そうとするのだが…。コナーの精神の不安定さを危惧し母親や祖母はコナーに執拗に気を遣う。

コナーと祖母の関係も最悪だ。母親が病気で入院中のため、祖母と一緒に暮らそうと祖母が提案するのだがコナーは拒否する。なぜコナーがここまで祖母を拒否するのか。怪物に対しても祖母を排除してくれと頼んだりもする。

ラストでは怪物がコナーに第4の物語を話すように迫る。コナーは現実を見ていない。母親が助からないと知りながら、その現実から目を背け怪物に対抗しようとしている。コナーが現実を直視しすべてを受け入れると怪物は消えていく。

非常に難解で悲しい物語だ。コナーが作り出した怪物をコナー自身が気づいていない。母親は助からないと知りながら、望みを捨てることができない。これは12歳の子供にとっては当然のことなのだろう。

怪物の描写よりもコナーの不安定さの方が恐ろしくなる。



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