箱庭図書館 


 2018.10.25      乙一が素人作品をリメイク 【箱庭図書館】

                     

評価:3
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■ヒトコト感想
素人作家が書いたが没になった小説を、作家である乙一がリメイクし短編小説として完成させる。明らかに乙一っぽくない作品もあれば、見事に作者の色に染まっている作品もある。どうやら作者は小説のテーマを企画するのが苦手らしい。早い話が素人が没にした内容を原作として、プロの作家が描くとどのような小説が完成するかということなのだろう。

どれもそれなりに面白い。作者なりの工夫や仕掛けとしては、別の短編で登場したエピソードが他の短編に登場するなど、つながりが意識できるようになっている。原作の個性が強すぎて、乙一の雰囲気が微塵も感じられない作品もあれば、これはまさに乙一がゼロから生み出しそうな作品もある。

■ストーリー
僕が小説を書くようになったのには、心に秘めた理由があった(「小説家のつくり方」)。ふたりぼっちの文芸部で、先輩と過ごしたイタい毎日(「青春絶縁体」)。雪面の靴跡にみちびかれた、不思議なめぐり会い(「ホワイト・ステップ」)。“物語を紡ぐ町”で、ときに切なく、ときに温かく、奇跡のように重なり合う6つのストーリー。

■感想
最も印象深いのは「ホワイト・ステップ」だ。雪の降る町で、雪につく足跡と指で書く文字で平行世界の人と会話をする。まさにファンタジーにあふれている。平行世界では、今の自分とはまったく違う生活をする自分がいる。

相手の世界に興味をもったとしても、決して二つの世界が交わることはない。もし、相手の平行世界の中では自分が死んでいたとしたら。顔も名前も知らない人物と結婚し幸せな家庭を築いていたとしたら。雪の上に文字を書くことでしか意思を伝えられないのがなんとも良い。

「青春絶縁体」は、文芸部の女の先輩とやる気のない後輩を描いた作品だ。なんとなくだが、マンガにありそうなパターンだ。小説を書かない後輩は、無理やり先輩に小説を書かされる。そこでは、相手の作品を非難し続ける。

この雰囲気がまさにライトノベルだとかマンガのような雰囲気に思えてくる。モテない後輩が、女であるが先輩にだけはなぜか意識せずに話をすることができる。割と安易に考えつきそうなネタではあるが、なぜ乙一はこのネタを選択したのだろうか。

「小説家のつくり方」は複雑な構成となっている。小説家となった男の物語なのだが、秀逸なのはその男の姉の存在だ。活字中毒で四六時中本を読んでいないと気が済まない。本に熱中しすぎて、気が付けばバスの終点まで行ってしまっている。

家族が心配して迎えに行くと、バス停でひたすら本を読み続けている。このキャラクターは他の短編にもちょくちょく登場してくる。おそらくは作者のお気に入りのキャラクターなのだろう。強烈なインパクトはないが、妙にこのキャラクターは印象に残っている。

「ホワイト・ステップ」は、別のパターンでも描けそうな内容だ。



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