母と暮せば


 2019.6.20      パッと見は仲の良い母と息子だ【母と暮せば】

                     
母と暮せば  [ 吉永小百合 ]
評価:3

■ヒトコト感想
長崎に原爆が落とされ犠牲になった者たち。母一人子一人で生活していた伸子と浩二の家族に不幸が訪れる。冒頭から浩二が原爆の犠牲となる。本作は幽体となった浩二が残された伸子と会話をしながら物語はすすんでいく。

浩二の気がかりは恋人の町子のことだった。戦後まもなくの日本の生活の過酷さと、残された者たちの辛さが描かれている。町子は浩二に義理立てて伸子の元に通う。浩二とは結婚していないが、浩二のことを思い町子は結婚しない。幽体となった浩二が明るく爽やかに思い出を語る。伸子は悲しみにくれるのだが、町子との関係を思い悩む。町子の思いを知ると涙が込み上げてくる。ラストの展開は強烈だ。

■ストーリー
1948年8月9日。長崎で助産婦をして暮らす伸子の前に、3年前に原爆で亡くしたはずの息子・浩二がひょっこり現れる。「母さんは諦めが悪いからなかなか出てこれられなかったんだよ」。その日から、浩二は時々伸子の前に現れるようになる。二人はたくさんの話をするが、一番の関心は浩二の恋人・町子のことだった。

「いつかあの子の幸せも考えなきゃね」。そんなふたりの時間は、奇妙だったけれど、楽しかった。その幸せは永遠に続くようにみえた―。

■感想
医者の卵であった浩二が長崎で原爆の被害にあう。一瞬で死ぬ浩二。いきなり主人公が死んで物語としてどうなるのか。ひとり残された伸子の前に、幽体となった浩二がでてくる。物語はこの残された伸子と幽体の浩二の会話が続く。

浩二の一番の関心は、恋人の町子のことだった。町子は浩二が死んでからも伸子の元に通い伸子の手伝いをする。町子のけなげな行動には涙が込み上げてくる。教師として子供たちに慕われながら浩二のことを思い伸子の手伝いをする。

伸子は幽体の浩二と楽しく過ごす。浩二が自分が死んだことを棚に上げ、強烈に明るく楽しそうに話をする。伸子と浩二の会話だけを見ていると、仲の良い親子の生活のように見えてくる。町子と浩二の思い出が合間に挟まれながら、現実の町子の状況を心配する浩二と伸子。

町子はいつまで死んだ浩二に義理立てするのか。伸子が町子に話をすると、町子は怒りだす。それは浩二に対する思いの強さなのかもしれないが、いつまでも死んだ浩二を思い続けるのは無理なのだろう。

戦後まもない時代が描かれている。配給だけでは生活できない現実。伸子のことを好意的に思うおじさんから闇物資を受け取りながら生活する伸子。心の中には相手を利用しているという罪悪感がある。このあたりも、浩二につっこまれている。

助産婦として働く伸子。幽体の浩二は、町子が婚約者を連れてきたことで、浩二の存在も危うくなる。伸子からすると、幽体であろうと浩二と会えなくなることはこの上なく辛いことなのだろう。ラストの展開は、ひとり残された伸子としては理想的なのかもしれない。

浩二が明るく会話するのが何より救いだ。



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