母なる凪と父なる時化 


 2019.2.7      登校拒否児が転校して変わる 【母なる凪と父なる時化】

                     
母なる凪と父なる時化 / 辻仁成
評価:3
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■ヒトコト感想
東京から函館に転校したセキジと同じ顔をした函館の高校生レイジとの交流を描いた作品。作者が函館になじみ深いことから描かれた作品なのだろう。セキジは登校拒否を続けていたが、転校しレイジと出会ったことから変わっていく。レイジとセキジは家庭環境はまったく違うが、気持ちが通じ合っている。

レイジの彼女と初体験をするセキジ。そして、レイジに誘われて密漁にも手をだすセキジ。高校生ならではの危うさと、登校拒否状態からの脱出には様々な葛藤がある。強烈なのはセキジがレイジに促されるようにサラリーマンを殴打する場面だ。いつの間にかセキジ自身もそれに熱中し我を忘れて殴り続ける。行き場のない思いを抱えた少年たちの物語だ。

■ストーリー
高校一年の夏、同級生たちのリンチをうけてから登校拒否を続けていた僕は、父親の転勤で函館に転校することになった。そこで出会ったのは自分とそっくりの顔をした不良のレイジ。友達を作ることが苦手だった僕が、レイジとはすぐ仲良くなった。飲酒、暴行、セックス、そして函館の海での密漁…。行き場のない想いを抱えた少年が駆け抜けた短い夏を、みずみずしく描いた青春小説。

■感想
セキジの家庭環境は何不自由ないはずだ。それでもちょっとしたイジメをきっかけとして、セキジは登校拒否状態となってしまう。母親はセキジと友達のような関係を築き上げる。登校拒否の子供に対する対応として何が正しいのか。セキジは転校をきっかけとして高校に通うことになる。

函館では顔がそっくりなレイジと出会うことでセキジは変わっていく。暴力とは無縁のはずのセキジが、レイジに感化されていく。イジメを受け、引きこもり状態となったはずのセキジが他者を暴力で押さえつけようとする。

レイジの恋人とセキジは初体験をする。レイジが何を思ってそうしたのか。セキジは函館に転校したことにより、今まで経験できなかったことを体験していく。悪い仲間と付き合い、酒、暴力、セックスと普通の家庭で育った引きこもりがすさまじい変化の波に飲み込まれていく。

レイジの姉であるマコトと出会い、そしてマコトを狙い続けるヤクザの山谷と出会う。密漁に手を出すことでセキジは変わっていく。ただ、山谷に対しての思いというのは、山谷がマコトをレイプしたことで激しいものに変わっている。

函館の田舎でセキジははじけていく。レイジという同じ顔をもつ者に引っ張られたというのはあるとしても、平凡な家庭の引きこもり少年が大きく変わっていく。両親としては、息子が引きこもりから脱却したことはうれしいのだろうが、その代わりに悪い道に入り込むとは思わなかっただろう。

振れ幅の大きさに、親の立場からするとどちらがよいかは選ぶのは難しい。イジメと引きこもりの経験はセキジの人格形成に大きな影響を与えたのだろう。そこからレイジと出会うことでセキジは大きく変わっていく。

同じ顔をもつことにどのような意味があるのかは不明だ。



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