五女夏音 


 2020.8.15      大家族と生活することのストレス 【五女夏音】

                     
五女夏音 / 辻 仁成
評価:3
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■ヒトコト感想
大家族の中に小説家の男が婿入りする物語だ。核家族化が進んだ中で、大家族の存在は貴重だろう。生まれた時から大家族が当たり前で、その流れで成長してきた五女の夏音からすると、ごく普通の日常なのだろう。夏音と結婚することになった男の苦悩が描かれている。

大家族でなくとも、家独特の風習はある。相手が核家族であっても、結婚し相手の家族と親しくなると、風習の違いに驚く時がある。それが、相手が大家族となると、ひとり孤独を感じ、慣れない風習に苦労するだろう。小説家という職業も、他の家族から目を付けられる要因となる。個性的な甥っ子の存在や、姑や小姑の存在まで、大家族に慣れていないとこの大家族と同居は普通に考えたら無理だろう。

■ストーリー
自由と孤独を愛する若き小説家が恋に落ちた。子供を産んで幸せな家庭を築きたい―夏音のささやかな願いに結婚を決意。だが夏音は五女、婿として一族と共に暮らす羽目に。家族という集団の中で繰り広げられる喜劇と悲劇に困惑し時に苛立ちながらも、彼の孤独な魂は温もりに目覚めていく。

■感想
小説家は普通の職業の人と比べ、もしかしたら孤独を好む傾向にあるのかもしれない。そんな男が結婚し子供をもうけ、大家族と暮らす。五女である夏音に騙された形で、いつのまにか養子にされたりもする。こうなると、もうどうしようもないだろう。

大人しく大家族のしきたりに従うしかない。他の家族たちは、小説家である男のことをそれなりに立てるのだが、男自身が大家族に慣れていないだけに、ちょっとのことでストレスで苦しんでいる。最後には家を出て行ってしまうのが爽快だ。

大家族なので、他の家族の問題はある。甥っ子に問題があり、甥っ子が家出したりもする。シングルマザーだった義理の姉が再婚相手を連れてきたのだが…。その相手は外国人なのだが、それだけでなく元女であり性転換して男となっていた男だった。

当然ながら大家族の間で家族会議が開かれることになる。すんなり問題が解決することもあれば、モメにモメて誰もが触れない状態のまま、フェードアウトするパターンもある。それぞれの価値観は様々なので、すべての意見が一致することはありえないのだろう。

男は小説家として大成するために長編小説を書きすすめる。そのために、というのは口実で、大家族から逃げだしたいために家出をする。大家族としては、家族の構成要素が家出をするというのはかなりショッキングな出来事ではあるのだが、外部に漏らすべきことではないのだろう。

男の実家には特別な連絡は行っていない。編集者とだけ連絡を取り合っていたはずが、ついに家族に居場所がバレてしまう。大家族に捕らえられた者は、抜け出すことはできないのだろう。

大家族と生活するのは強烈なストレスだろう。



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