風神の手 


 2018.7.18      すべてのつながりが無駄なく美しい 【風神の手】

                     
風神の手 [ 道尾秀介 ]
評価:3.5
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■ヒトコト感想
短編それぞれに深いつながりのある作品だ。最初の短編での出来事は、その後の短編に深く影響してくる。直接的な影響や間接的な影響を含め、あらゆるつながりがあるのがすばらしい。本作は間違いなく連続して読むべきだろう。

ひとつの出来事が次の出来事につながる。「鏡影館」を舞台にした出来事。ある短編ではひとつの事件の片側だけを語り、別の短編ではその事件の裏側と重要な関連がある。橋から石を落として死んだはずの男が実は生きていた。ひとつの嘘がその後の人生に大きな影響をおよぼし、別の短編ではその男と女の子供たちが自分たちの両親の事件について語る。あらゆる伏線が確実に回収されており、有効に活用されているのがすばらしい。

■ストーリー
彼/彼女らの人生は重なり、つながる。隠された“因果律(めぐりあわせ)"の鍵を握るのは、一体誰なのかーー 遺影専門の写真館「鏡影館」がある街を舞台にした、朝日新聞連載の「口笛鳥」を含む長編小説。読み進めるごとに出来事の〈意味〉が反転しながらつながっていき、数十年の歳月が流れていく──。

道尾秀介にしか描けない世界観の傑作ミステリー。ささいな嘘が、女子高校生と若き漁師の運命を変える――心中花まめ&でっかち、小学5年生の2人が遭遇した“事件"――口笛鳥死を前にして、老女は自らの“罪"を打ち明ける ――無常風各章の登場人物たちが、意外なかたちで集う ――待宵月

■感想
舞台は下上町という変わった町で起こる。第1章の「心中花」はとある女子高生と青年の淡い恋物語が描かれている。ひとつの事件をきっかけに青年の父親がついた嘘により女子高生と青年は離れ離れとなる。母親が娘に語りかける物語だ。

ミステリー的な要素は弱く、まだ第1章の段階ではその仕組みがわからない。それでも、なぜ父親が嘘をついたのかという疑問は後にまで引きずることになる。この後、第2章の「口笛鳥」はガラリと変わり、小学生二人が主人公となる。ここでは、連作ではなく単純な短編のように思ってしまった。

第1章と第2章は単体でもそれなりに面白い。しかし、本作のメインは間違いなく第3章である「無情風」だろう。第1章で登場してきた男女の子供たちが主人公の本作。親たちの恋愛についての秘密や、そこからさらに第2章の小学生ふたりにつながることになる。

小学生ふたりは大人となり、当時を思い出しながらの物語となる。1章と2章の事件にはさらに別の意味があった。そして、事件の発端である西取川への薬物の混入事件の秘密が明らかとなる。

第3章以降を読んで初めて本作の仕組みに気づくだろう。綿密に計算されつくした展開はすばらしい。陰惨な事件や極悪な人物と思われた者も、実は裏には秘密があった。本作に登場してくる人物たちには、悪者はまったく存在しない。

やむを得ない状況から行うこともある。決して許されないことだが、どこか同情を誘う。すべての物語がつながった時、強烈な読後感を残す。どこか伊坂幸太郎的な雰囲気もありつつ、物語のつながりを楽しむべき作品だろう。

すべてに無駄がないのが美しい



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