代筆屋 


 2021.7.7      ラブレターを代筆し、その返事も代筆する 【代筆屋】

                     
代筆屋 [ 辻仁成 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
手紙を代筆する男の物語。手紙を代筆するというのは、依頼主にそれなりの理由がある。それぞれの代筆に至る理由と、そこでの物語が描かれている。メールやSNSが全盛の現代において手紙を書くことは間違いなく減っているだろう。そんな状態だからこそ、手紙がくると、その内容にはメールやSNSでは伝わらない何かがあるような気がする。代筆屋は手紙を書くに至るまでの経緯を重要視する。

印象的なのは、ハンバーガーショップの店員が店によく来る女の子に書くラブレターの代筆を依頼する物語だ。代筆でラブレターというのは定番かもしれない。本作では、ラブレターだけでなく、祖母から孫へ、孫から祖母へなんていう手紙もある。手紙を書いてみようと思わせられる作品だ。

■ストーリー
何かを待つ、というのは大事なことだ。待っているものが来ると信じているあいだは、不思議なほどに力が湧く。手紙を待つ、という行為には生きる希望が潜んでいる。手紙を書くことには力がいるが、手紙によって勇気が生まれる。私はその力を信じてみたかった―。手紙の代筆で人助けをする、売れない作家の日々。人生観を変えるハートフルストーリー。

■感想
男はまるでハードボイルドの主人公のようにバーを代筆の連絡先として使っている。バーにいる男を見つけ出し代筆の依頼をする。依頼する理由は様々で、純粋に手紙を書くことに慣れていない者も多い。メールやSNSとなると短文で意図を伝えきる必要がある。それらのテクニックは習熟できたとしても、手紙となると勝手が違うのだろう。

手紙を書くとなると長文になり、また、相手に対してこちらの思いをストレートに伝えることができる。本作を読んであらためてそんな手紙の効果について認識できた。

印象的なエピソードはバーガーショップでバイトする男が、客でくる女の子に書くラブレターを代筆する物語だ。話をしたこともない相手に出す手紙のため、控えめに友達になりたいという内容だ。物語として秀逸なのは、その手紙を渡した相手の女の子からも代筆を依頼される部分だ。

実は男の同僚のことが好きで店に通っていた。相手を傷つけずに断るための手紙の代筆を依頼してきた。。そして代筆された手紙の内容はというと。。どう考えても断られてはいるが、脈がありそうな内容となっている。純粋に断る手紙としては失敗だと、その時は思ったのだが…。

その後日談として、女の子と男は結局付き合うことになったらしい。断るための文面は、チャンスありのように見えた。実際に本当に断りたいのならもっとズバリと切り捨てるべきだろう。

その他の物語としては、入院中の祖母は孫が生きていると思い手紙を待ち続ける。死んだ孫の代わりに祖母に手紙を代筆する物語がある。ある意味、相手を騙していることになるのだが、一生バレないことであれば騙しても良いような気がした。代筆屋は良いウソなら積極的につくようだ。

手紙に対する考え方をあらためさせられる作品だ。



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