愛の工面 


 2019.5.18      女性写真家のドキュメント? 【愛の工面】

                     
愛の工面 / 辻 仁成 / 幻冬舎
評価:2.5
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■ヒトコト感想
女性写真家が主人公の本作。作中では写真が登場してくるのだが…。女性が様々なシチュエーションで写真を撮る。今のようにデジカメで撮るのではなく、当然ながらフィルムのカメラだ。女性がどのように被写体を捉え考えているのか。レンズを通して見る被写体の映像と、被写体の人間性までもがフィルムに影響してくる。

男の背中ばかり撮るだとか、ちょっと特殊な写真を通して女性の気持ちが語られている。作中の写真を見ると、作者は男ではあるが、女性写真家と同じような目線と考え方をもっているのではないかと思えてきた。実際の写真を見ると、まさにノンフィクション作品のように思えてしまう。ただ、写真に興味がないと辛い作品かもしれない。

■ストーリー
主人公である女性写真家を通じて、自身の考え方を伝える。実際の写真を交えながらの、ノンフィクションのような不思議な小説。

■感想
主人公の女性写真家は、カメラを通して物事を考える。被写体に対して強烈に感情移入するわけでもなく、どちらかと言えば距離を置きながらのドライな対応となる。今のようにデジカメではないので、撮影した写真をその場で確認し削除するような行為はない。

現像して初めてどんな写真が撮れたかわかる。その手間暇とフィルム独特の質感が、女性主人公に独特な雰囲気をもたせているのだろう。作者は男であるが、まるで女性作家が描いたような作品の雰囲気を感じることができる。

女は様々な人物を被写体として選ぶ。男の背中ばかりを撮影するのは、強烈なインパクトがある。男の背中というのは、大人の男の象徴のような雰囲気かもしれない。女性とは異なる男の背中というのは、それだけで何か特別感がある。

女性カメラマンという架空の人物を通して、自分の考え方を読者に伝える。おそらくは作者も写真を撮ることを趣味としているのだろう。女性と男性で写真の出来栄えが変わるとは思えないが、被写体に対しての思いというのは少なからず写真にでてくるのだろう。

自分が写真にそれほど興味がないので、作品の中に登場してくる写真に対して、技術的な面や構図の良し悪しや写真として優劣については印象にない。タイトルから想像したよりも写真家としての印象が強い。どちらかと言うと、ドキュメンタリー作品のようにすら思えてくる。

実際に女優の写真が最初に登場してくると、まさにその女優が主役の女性カメラマンなのではないかと思えてくる。勝手な刷り込みかもしれないが、それなりにインパクトのある写真の数々だ。

女性写真家というのがポイントかもしれない。



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