Iの悲劇 


 2020.9.13      村を蘇らせることが必ずしも正義ではない 【Iの悲劇】

                     
Iの悲劇 [ 米澤 穂信 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
Iターンを積極的に実施し死んだ村を蘇らせる「甦り課」そこに勤務する公務員の万願寺が移住者の様々な問題に対応する。限界集落に移住してくる者たちにトラブルが発生し、村からでていく。それらの様々なパターンが連作短編形式で描かれている。ご近所トラブルやビジネスを始めようとしての失敗、近所の子どもが神隠しのように消えてしまう事故や、健康被害を訴えるクレーマーまで。

よくここまでトラブルが続くものだと思わずにはいられない。万願寺の上司の課長・西野と新人の観山と共に対応するのだが…。ラストで、なぜこれほどトラブル続きで村に人がいつかないかが判明する。西野はやる気のないそぶりを見せてはいるが、実はキレ者というのがポイントなのかもしれない。

■ストーリー
一度死んだ村に、人を呼び戻す。それが「甦り課」の使命だ。人当たりがよく、さばけた新人、観山遊香。出世が望み。公務員らしい公務員、万願寺邦和。とにかく定時に退社。やる気の薄い課長、西野秀嗣。日々舞い込んでくる移住者たちのトラブルを、最終的に解決するのはいつも―。徐々に明らかになる、限界集落の「現実」!そして静かに待ち受ける「衝撃」。

■感想
誰も人が住まなくなった村に市で資金を出して移住者を募る。都会から田舎暮らしにあこがれた者たちがやってくるのだが…。甦り課として移住者のサポートを続けるのだが、次々とトラブルが発生する。まずはご近所トラブルだ。

田舎ならば自由に趣味を楽しめると、周りを気にすることなく爆音で音楽を鳴らしBBQをやる家と、多少離れてはいるが巨大なラジコン飛行機を楽しむ家。田舎ならば許されるかというと…。結局のところ騒音トラブルは、片方の家でボヤが発生したことで、村から出ていくのだが、その裏では驚きの真実が隠されていた。。

池で鯉を飼いそれを販売するビジネスを始めようと移住してきた者がいた。鯉が何者かに盗まれたというクレームが甦り課に入るのだが…。人が盗むことを前提に物語はすすんでいるのだが、実は大きな盲点があった。叙述ミステリー的な思い込みによる勘違いが描かれている。

そこに至るまでには、甦り課の誰かひとりでも現場を見ていればすぐに気が付いたことだが、それができていない。作為的な何かを感じずにはいられない流れであることは間違いない。

防空壕の上の部屋に大量の本を置いたことで、防空壕が崩れ事故が起きる。健康に気を遣う者が毒キノコを食べて体調を壊す。それぞれが問題を抱えつつ、結局村をでていく。村を蘇らせるためにスタートした企画だが、結局のところ失敗に終わる。

なぜそうなったのか、ラストで衝撃の事実が語られる。村を蘇らせることが必ずしも正義ではない。市として人が住む限りは、そこにインフラの整備が必要となる。財政難の市からすると…。よく考えられた流れだ。

Iターンを活用した面白いパターンだ。



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