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 2018.3.4      伊坂ワールド全開の殺し屋たち 【AX】

                     
AX アックス [ 伊坂 幸太郎 ]
評価:3.5
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■ヒトコト感想
殺し屋を主役とした連作短編集。殺し屋といっても伊坂幸太郎のキャラ独特の丁寧でユーモアあふれるキャラとなっている。超一流の殺し屋である「兜」は、平凡な文房具売りのサラリーマンであり、極度の恐妻家である。兜の日常の行動を観察していると、とても殺し屋とは思えない。兜に仕事を依頼する「医者」の存在や、同業者の存在など、ユーモアの中にも殺し屋組織の様々な軋轢が描かれている。

妻の機嫌をとり、怒りをかわないように常に気を使いつづける。息子に同情されるほどの状況だ。そんな兜が殺し屋生活から抜け出すためにある決断をする。シリアスな中にもユーモアが含まれている。家族も知らない兜の真の姿。伊坂ワールド全開の殺し屋の生き様が描かれている。

■ストーリー
最強の殺し屋は―恐妻家。「兜」は超一流の殺し屋だが、家では妻に頭が上がらない。一人息子の克巳もあきれるほどだ。兜がこの仕事を辞めたい、と考えはじめたのは、克巳が生まれた頃だった。

引退に必要な金を稼ぐため、仕方なく仕事を続けていたある日、爆弾職人を軽々と始末した兜は、意外な人物から襲撃を受ける。こんな物騒な仕事をしていることは、家族はもちろん、知らない。『グラスホッパー』『マリアビートル』に連なる殺し屋シリーズ最新作!書き下ろし2篇を加えた計5篇。

■感想
超一流の殺し屋である兜の連作短編集だ。「医者」から依頼をされ、社会に害悪をなす者は「悪性腫瘍」として排除しようとする。たまには「良性の腫瘍」も排除するよう依頼がある。裏の仕事をやり続ける兜だが、実は極度の恐妻家である。

常に妻に気を使い、妻が機嫌を損ねないように考えて言葉を選ぶ。息子は、父親があまりに母親に気を使いすぎることに同情すらしている。殺し屋が主役の物語だが、ハードボイルドな雰囲気はまったくない。兜のキャラがちょっと間抜け風なのもそう感じさせるのだろう。

兜と同様に裏社会での仕事に従事する者たちがいる。兜の同僚ではあるが、同じように丁寧な言葉づかいと、ごく普通の生活を続けている。兜の生活の中で、殺し屋稼業というのは生活の一部となってはいるが、兜自身はそのことに違和感を覚えている。

そして、足を洗おうとするのだが…。兜が足を洗おうとすると、医者からは家族を殺すと言われる。穏やかな性格だが、その中にはしっかりとした信念がある。強烈なインパクトはないのだが、兜の状況というのはそれなりにインパクトがある。

連作短編集として、兜の状況が明らかとなり、その後、兜の息子が兜の状況を調査しようとする。兜がどのような結末を迎え、その先では兜の息子がどのような動きをするのか。父親がどのような状況にあったのかを知るために息子が動き出す。

ここでも、作者の他作品で登場した「押し屋」や、その他のキャラが登場してくる。特別なインパクトはないのだが、作者独特のキャラたちが、丁寧な口調で結末を露わにする。殺し屋の結末としては、それなりにハッピ―エンドなのかもしれない。

作者のファンならば外せない作品だろう。



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