ずっとあなたが好きでした 歌野晶午


 2015.2.28      ひねりの利いた恋愛小説 【ずっとあなたが好きでした】

                     
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■ヒトコト感想

タイトルは恋愛小説風で、いくつかそのような内容の作品もある。が、やはり歌野晶午の作品はそれなりに仕掛けがある。それぞれの短編が非常にバラエティに富んでいる。主人公も違えば、場所も違い、舞台となる国やシチュエーションは様々。ミステリーありユーモアありとまさに変化に富んだ短編集なのだが…。

本作向けの描き下ろしである「錦の袋はタイムカプセル」で、大きな秘密が明かされることになる。恐らく後付なのだろうが、驚きはある。まったく別の主人公の話と思いきや…。見事というか強引というか、この仕掛けをやりきってしまう歌野晶午の強引さが良い。何かを期待している人は、頑張って後半まで読むべきだろう。

■ストーリー

甘く切なく、ちょっと痛い恋の話いろいろ国内外の様々な場所で、いろいろな男女が繰りひろげる、それぞれの恋模様。サプライズ・ミステリーの名手が贈る恋愛小説集……だが?

■感想
全体として大きな仕掛けはあるが、個別の短編としても面白い。特に表題作でもある「ずっとあなたが好きでした」は、純粋な恋愛作品と思わせておきながら、最後のひとことに強烈なオチがある。バイト先で出会った年上の女の子。それを邪魔する厭な社員の男。

中学生目線の作品で、誰もが想像する純愛を打ち砕くオチがまっている。多少このオチを想像できるとしたら、それは歌野晶午作品を読み慣れている人だろう。ちなみに、自分はしっかりと予想することができたが、それでも楽しめた。

「黄泉路より」は、サイトで自殺希望者が集まり、車に乗って集団自殺に向かう際のちょっとした恋愛模様だ。むちゃくちゃな状況で恋愛に発展するのか?という場面でも強引に恋愛物語にしてしまうのがすごい。そして、オチはひねりが利いており良い。

さらには、これらの物語も、一連の流れのひとつというのがむちゃくちゃなようでいて、すばらしい。他の短編ではミステリー的な流れのモノはあるが、どちらかと言えば、純粋な恋愛系の話の方がひねりが利いていて良い。

本作のすばらしいところは、なによりシチュエーションがバラエティに富んでいることだ。こんな状況を恋愛小説にしてしまうのか?という場面もあれば、ありきたりなネット上の出会いからリアルへと繋がる恋愛もある。「まどろみ」なんてのは、ひとつの部屋でただ男と女がいちゃいちゃしただけの作品だ。

「幻の女」のように殺人事件のミステリーを解き明かす際に、男女の関係をからめているものもある。それらすべてまったく別の登場人物、シチュエーションと思わせておきながら、実は…。

「錦の袋はタイムカプセル」の強引さが本作の評価を高めているのは間違いない。



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