ユートピア 湊かなえ


 2016.9.1      嫉妬にまみれた女たちのユートピア 【ユートピア】

                     

湊かなえおすすめランキング
■ヒトコト感想
小さな港町が舞台の本作。田舎独特の相手を詮索するような雰囲気と、冷凍食品会社ハッスイの工場に勤務する転勤族が多く住む場所。そして、芸術村という芸術家きどりの者たちが住む場所でもある。田舎独特の、他者に必要以上に干渉する雰囲気と、女同士の嫉妬のようなものを激しく感じる作品だ。

仏具店の嫁・菜々子とハッスイの社宅住まいの光稀。そして、陶芸家のすみれ。この三人を中心として物語は描かれていく。生活レベルの違いや、子供同士の関係など、陰鬱となるような記述もある。小さな街ではひとつのうわさが独り歩きする恐ろしさもある。家にいない男ではこうはならない。常に地域を意識しなければならない女性ならではの感覚かもしれない。

■ストーリー

地方の商店街に古くから続く仏具店の嫁・菜々子と、夫の転勤により社宅住まいをしている妻・光稀。そして移住してきた陶芸家・すみれ。美しい海辺の町で、三人の女性が出会う。自分の居場所を求めて、それぞれの理想郷を探すが―。

■感想
都会から地方へと越してきた光稀。そこでまず田舎と都会の違いや生活する者のレベルの違いを感じてしまう。ここで、女同士のちょっとした品評会が始まってくる。芸術村という特殊な環境で、陶芸家として生活するすみれや代々住み続けている仏具店の菜々子からすると、光稀は都会の女なのだろう。

いわくつきの土地であっても、そこで芸術家として半分ボランティアのように活動する者たち。地域密着型という言葉だけではすまされないような、めんどくさい雰囲気を感じずにはいられない。

過去に殺人事件があった場所に建てられた芸術村。いまだ捕まっていない容疑者の不安がありながらも、新しく来た住人たちは過去を知らない。地元民と新しい住人との違いや、うわさ話の恐ろしさ。そして、それぞれの家族の関係など、物語は複雑化していく。

さらには、菜々子の娘が過去の事故により車いす生活となり、心因性で歩くことができない。足の悪い久美香を手助けするのは、光稀の娘である彩也子。久美香の足が、本当は歩けるのではないか?という噂が広まり…。このあたりはミステリー的魅力がある。

ラストでは芸術村が火事となる。そこにいた久美香と彩也子はどうなったのか。また、過去の殺人事件の原因となった金をなぜか持っている菜々子は、娘の誘拐騒ぎに巻き込まれることになる。様々な要素があり、ひとつに絞れない。

田舎独特のプライバシーがないような雰囲気は感じることができる。が、久美香が歩けるかどうなのかや、過去の殺人事件の真相など、ラストは駆け足ですべてが説明されている。それなりにすっきりとしたオチだが、なんだかごちゃごちゃとした印象は否めない。

女たちのユートピアは決して安心して生活できる場所ではないということだ。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp