ヤモリ、カエル、シジミチョウ 江國香織


 2015.3.18      虫と会話できる子供 【ヤモリ、カエル、シジミチョウ】

                     
江國香織おすすめランキング


■ヒトコト感想

虫たちと意思の疎通ができる幼稚園児のタクト。その姉のイクミ。二人を中心に、周辺の大人たちの変化を描いていく。大人たちと子供に必ずしも接点があるわけではない。一度結婚を約束した婚約者と別れた女などは、ほとんど子供たちと絡まないが、物語として描かれている。すべての登場人物たちが、どこか不幸な影をもっている。

家族がありながら自由に恋愛を続けるタクトの父親。夫が不倫していると知りながら、何も言えない妻。タクトと心の中で会話ができる唯一の大人である墓の管理人。どこかチグハグで、心に闇を抱えている大人たちばかり。タクトの特殊な能力は、大人たちの日常を通り越して、別の思考へと入り込む。大人から見た子供の未知な部分を、独特な表現であらわした作品だ。

■ストーリー

虫と話をする幼稚園児の拓人、そんな弟を懸命に庇護しようとする姉、ためらいなく恋人との時間を優先させる父、その帰りを思い煩いながら待ちつづける母―。危ういバランスにある家族にいて、拓人が両親と姉のほかにちかしさを覚えるのは、ヤモリやカエルといった小さな生き物たち。彼らは言葉を発さなくとも、拓人と意思の疎通ができる世界の住人だ。

近隣の自然とふれあいながら、ゆるやかに成長する拓人。一方で、家族をはじめ、近くに住まう大人たちの生活は刻々と変化していく。静かな、しかし決して穏やかではいられない日常を精緻な文章で描きながら、小さな子どもが世界を感受する一瞬を、ふかい企みによって鮮やかに捉えた野心的長篇小説。

■感想
虫と話をする幼稚園児のタクト。まずヤモリと話をし、ペットのような扱いをする。タクトの能力を理解しているのは姉のイクミのみ。墓の管理人である児島だけが、タクトに話しかけることができ、その能力に気づく。

タクトは年齢からすると、少し幼く、大人からすると少し知能の発達が遅れた子供のように見えるのだろう。カエルやヤモリと話ができる子供。大人からすると、子供独特の世界ということで真剣にはとらえない。大人の常識では測れない子供の世界は、本作のような感じなのかもしれない。

タクトの家族を中心として描かれる本作。まず母親と父親の関係がいびつだ。仕事に忙しく自由な恋愛をし、妻に対しても嘘をつかない夫。妻からすれば、不倫の事実を隠すなり否定してくれれば良いがそれもしない。蛇の生殺しのような状態。かといって別れるつもりもない。

夫婦関係が崩壊していると、子供たちはその空気を敏感に察知してしまう。特に姉のイクミ目線でのパートは強烈だ。子供なりに家庭の空気を読み、言って良いことと悪いことを区別する。大人が思っている以上に、子供はすべてに気づいている。

タクトの成長と共に、タクトのパートの文体も変化していく。イクミやタクトが大事にしたカエルを母親が捨てようとした時のくだりや、家族の崩壊をなんとなく察知する部分などは強烈だ。大人からすると、子供だからとつい甘く考えてしまうが、子供だからこそ、相手を尊重して考える必要がある。

タクトが成長し虫たちとの会話も減っていく部分は良い。特にイクミが、死んだカエルを飲み込む場面などは最高かもしれない。ラストは微かな幸せをにおわせているので、少しホッとした。

幼稚園児くらいの子供が何を考えているかわからないのは、どの大人も共通な思いだろう。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp