夜行  


 2017.6.1      オチを描かないことの恐怖 【夜行】

                     
夜行 [ 森見 登美彦 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
ホラーのような連作短編集。十年ぶりに集まった者たちが話をする。なんの事前情報もないまま、長谷川さんという女性が消えたということだけが強く印象に残る。そして、次々話が始まるとその内容が非常に奇妙でホラーじみていると判る。明確にどうなったという結末が描かれいるわけではないが、不幸な結末になったのでは?と思わせる流れだ。

人が消えていくのか、はたまた妖怪的な何かなのか。長谷川さんが消えたことに関連しているのか?と疑問に思いながら最後まで読みすすめると、ラストで良くわからない流れとなる。長谷川さんは消えておらず、あなたが消えていたのだ。夜行と曙光という表裏一体の世界。そこに入り込んだのか、はたまたそこからでてきたのか。最後はよくわからない。

■ストーリー
私たち六人は、京都で学生時代を過ごした仲間だった。十年前、鞍馬の火祭りを訪れた私たちの前から、長谷川さんは突然姿を消した。十年ぶりに鞍馬に集まったのは、おそらく皆、もう一度彼女に会いたかったからだ。夜が更けるなか、それぞれが旅先で出会った不思議な体験を語り出す。私たちは全員、岸田道生という画家が描いた「夜行」という絵と出会っていた。

■感想
冒頭から長谷川さんが消え、その後に続く話が非常にホラーめいているので、ホラーミステリーかと思った。森見登美彦の作品らしくないと思いつつ、ホラーの要素は十分楽しめた。ひとりひとりが順番に話をしていく。いるはずのないモノがいたり、死相が見えると言われたり。

なんだかホラーの要素というか妖怪的な雰囲気を感じつつ、そのオチは決して描かない。結局のところ、その後どうなったのかは想像するしかない。ただ、前半は長谷川さんが消えたことと関係があるのでは?と想像しながら読みすすめた。

雪景色の中、突然見えた家。その家に行ったことがあるという女子高生。そして、傍らにはお坊さん。すでにこの状況がなんだかおかしいが、事のポイントは女子高生にある。お坊さんはうさんくさい詐欺師であり、女子高生の方が怪しげな元凶となる。

淡々と語られる会話の中に、おかしなことが混じっているのだが、それを雰囲気の中に同化させている。なにかがあると感じながらも、その結末を描かれないと、次々と想像力は広がっていく。その結果として…。否が応でも結末に強く興味が惹かれることになる。

ラストはなんだかよくわからない。結局長谷川さんは失踪していなかった。夜行と曙光という二つの作品が、それぞれの世界を形作る。で、結局どういうことなのかよくわからない。ふたつの世界を行ったり来たりした結果どうなるのか。

長谷川さんとは結局何者なのか。底知れぬ怖さがある。結末を明確にしないために感じる怖さだろう。オチをはっきりと描かないことによるフラストレーションと、この独特な恐怖感のどちらかを選ぶとして、作者は恐怖感を選んだということだ。

今までのヘンテコな森見作品のイメージとはだいぶ異なった作品だ。



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