ヴァラエティ  


 2017.3.14      クロアチアのサッカーファン目線が最高 【ヴァラエティ】

                     
評価:3
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■ヒトコト感想
奥田英朗の今までの短編集のどれにもあてはまらない作品が収録された本作。確かに雑多な印象はあるが、興味深い短編もある。広告代理店勤務のサラリーマンが脱サラし起業する。その難しさと元いた企業から邪魔されるなど前途多難な状況が描かれている。特別なオチがあるわけではないのだが、結末として前向きな気持ちになれる作品だ。

その他、W杯の日本対クロアチアをクロアチアの国民として試合を見たパターンのショートショートがある。これが最高に面白い。日本からすると信じられないようなミスも、クロアチアからしたら信じられないような幸運ということなのだろう。作者は事件の裏側を勝手に想像し、面白おかしく描くのがすばらしくうまい。

■ストーリー
迷惑、顰蹙、無理難題。人生、困ってからがおもしろい。脱サラで会社を興した38歳の社長、渋滞中の車にどんどん知らない人を乗せる妻、住み込みで働く職場の謎めいた同僚…。著者お気に入りの短編から、唯一のショートショート、敬愛するイッセー尾形氏、山田太一氏との対談まで、あれこれ楽しい贅沢な一冊!!蔵出し短編集!

■感想
広告代理店勤務の男が脱サラし起業する。当初予定していた仕事が、元所属していた企業の陰謀で白紙となり、部下として雇うはずの男も来なくなる。サラリーマンが会社を辞めて独立するのは相当な決意が必要だ。家族にも迷惑がかかる。

ある程度勝算があってのことだろうが…。仕事を辞めてから様々な困難に直面する。男の妻がじっとしていることに不安を覚え、夜中に突然家事をし出すなど、相当に追い込まれた状況になる。それでも男は希望を捨てず、最後には仲間たちが集まり会社もうまくいく兆しを見せる。このラストの流れは好きだ。

社長となると資金繰りや経営に対して冷酷になる必要がある。面白おかしく起業の際の困難が描かれているが、今から起業しようと考えている人にとっては勉強になる作品だろう。クライアントに対してはリッチな姿は見せず常に交渉でどれだけ自分たちが利益を得ることができるかを考える。

相手の心象がどうとかよりも、一円でも値切れるものは値切り、増額可能なものは増額を目指す。まさに中小企業の経営者とはこうあるべきだというお手本のような意地汚い社長が登場してくる。

秀逸なのは、W杯での日本対クロアチアの試合を、クロアチアを応援している側から見た作品だ。アジアの島国に負けるはずがないという思いと、意外にてこずったこと。そして、クロアチアにとっては決定的なピンチの場面で、日本の選手が外してしまう。

日本で話題になった柳沢のQBKをクロアチア側で面白おかしく描いている。確かに日本からするとムカついた場面だが、クロアチアからすると、この上ない幸運な出来事だったのだろう。

雑多な作品集だが、面白いのは間違いない。



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