虚ろな十字架 東野圭吾


 2015.5.7      犯罪者の罪の償いとは 【虚ろな十字架】

                     
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■ヒトコト感想

幼い娘を亡くした夫婦が離婚し、元妻が何者かに殺害される。娘と元妻を亡くした男は、死の意味を考える。犯罪を犯した者への制裁は死刑が妥当なのか、それとも無期懲役か。犯罪者の償いがテーマの本作。元妻が殺された事件の犯人はすぐに逮捕されるが、その動機がいかにもはっきりしない。男が調べた結果、驚くべき真実が隠されていた。

なんでもない通り魔的事件の裏には複雑に絡みあう人々の思いが錯綜していた。二十年も前の事件に関わりがあり、真実が明らかとなっていく過程で、強烈な引きの強さがある。殺人者の義理の息子が必要以上に被疑者をかばう理由。親族から離婚しろと言われても、決して首を縦に振らない理由。何かがあるとは思っていたが、衝撃的な真実がそこにある。

■ストーリー

別れた妻が殺された。もし、あのとき離婚していなければ、私はまた遺族になるところだった。東野圭吾にしか書けない圧倒的な密度と、深い思索に裏付けられた予想もつかない展開。私たちはまた、答えの出ない問いに立ち尽くす。

■感想
別れた妻が殺された。通り魔的犯行にしては、解せない理由がある。元妻の事件をきっかけに、事件の調査にのりだす男。主人公の男周辺は幸せとは言い難い。幼い娘が強盗に殺され、その事件がきっかけとなり、夫婦間が気まずくなり離婚することになる。それぞれ別の人生を歩んでいたはずが、突如、元妻が殺されたことを知る。

子供を失った夫婦はどうなるのか。一生、亡くした子供の影を追いかけ続ける生活から抜け出すためには、離婚しかないのだろう。子供を殺された恨みを、被疑者にぶつけたとしても、それで自分たちの気持ちが晴れるわけではない。

男の元妻を殺した容疑者はあっさりと自首してきた。犯人には特別な動機がない。不可解な事件は、犯人の義理の息子が懇切丁寧なお詫びの手紙を書いたことにより、より複雑化してくる。なんでもない通り魔的事件には裏があるように思えてくる。

犯人側家族の物語もまた強烈だ。義理とはいえ、家族に犯罪者がでた場合、家族への影響は大きい。にもかかわらず、被害者家族のことを真摯に考えるのは、性格が良いから?非の打ちどころのない善人に描かれる勤務医の男。ただ、善人であればあるほど、何かあるのでは?とよけいな想像をしてしまう。

事件の真の謎が明らかになるとき、衝撃と共に、何とも言えない悲しい気持ちになる。二十年以上も前の事件が、現代に大きな影響を及ぼす。ついつい二十年以上も前の事件のことは忘れてしまえば良いのでは?と思ってしまうが、それができない理由づけがしっかりとされている。

登場人物たちの強行とも思える行動が不自然にならぬよう、事前に伏線が張られている。自分の娘が殺された経験があるからこそ、たとえ二十年前だとしても、許せない行為がある。犯罪者自身の償いについても描かれている作品だ。

ひとつひとつの事件は大したことはないが、繋がると複雑な事件となる。



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