うつくしい人 西加奈子


 2016.12.11      作者の精神状態が作品にでている 【うつくしい人】

                     


■ヒトコト感想
あとがきを読むと、作者である西加奈子の不安定な精神状態が作品に反映されていると書かれている。本作の主人公である百合は他者のイラだちを敏感に感じ取ることができる能力がある。言うなれば、人の顔色を窺って日々生活しているようなタイプの女だ。勢いで会社を辞め、離島のホテルに目的のない旅にでる。

デリカシーのないバーテンダーや、行動の読めないドイツ人などちょっと変わった人々との交流を通して、百合の心の変化を楽しむ物語だ。百合が冒頭から何事にも神経質となり、ひとりで離島のホテルに向かうことに気おくれしているのが面白い。そんな考えをするくせに、一人旅をする。矛盾した気持ちの葛藤が良く現れた作品だ。

■ストーリー
他人の目を気にして、びくびくと生きている百合は、単純なミスがきっかけで会社をやめてしまう。発作的に旅立った離島のホテルで出会ったのはノーデリカシーなバーテン坂崎とドイツ人マティアス。ある夜、三人はホテルの図書館で写真を探すことに。片っ端から本をめくるうち、百合は自分の縮んだ心がゆっくりとほどけていくのを感じていた-。

■感想
他人の視線が気になる。ひとりで旅行すると他人から友達がいないと思われるのが辛い。必要以上に他者の目を気にするのが百合だ。些細なミスから会社を辞め、家が裕福だからとのんびり離島のホテルへと旅行する。ひとり旅をするくせに、ひとりでいることを後ろめたく思う。

ホテルの従業員がどのような視線で自分を見るかまで想像する。ここまでくるとかなり行き過ぎでちょっとした精神病的な印象をもつ。百合のホテルでの生活がメインとなるのだが、だんだんと百合の雰囲気が変わっていくのがポイントなのだろう。

ホテルでの百合の生活は、カクテルが作れない中年のバーテンダーやひとりでホテルにやってきたドイツ人との交流で変化していく。バーテンダーは海外で物理学を教えていたような高度な知識を持ちながら、なぜアルバイトのような生活をしているのか不明だ。

ドイツ人もステレオタイプな若者像を追い求めるあまり、心から求めていなくとも百合をホテルの部屋に誘い一緒に寝ようとする。このおかしな二人組と百合のホテル内での行動は、非日常的すぎる流れとなっている。

百合の精神的な不安定具合は冒頭のころに比べると随分和らいでいるように感じられた。人の目を気にし、自分がちょっとでもミスをして相手をイラ立たせることがないか神経を使う。他者の視線に恐怖を感じるまではいかないが、ちょっとした神経症の初期状態だろう。

それが、バーテンダーのお気楽な態度とドイツ人のよくわからない考え方に触れていくにつれ、百合は少しずつ変わっていく。作者の精神状態が、冒頭と終わりでは変わっていったということだろうか。

あとがきで作者が創作時の心境を暴露するのは面白い。



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