通天閣  


 2017.1.21      大阪のヘンなふたり 【通天閣】

                     
評価:4
西加奈子おすすめランキング
■ヒトコト感想
大阪ミナミを舞台にした作品。工場で働く40代のオジサンとスナックで働く20代後半の女の話。工場で派遣労働者として単純作業をくりかえす男だが、作業がすさまじく早いため一緒にコンビを組む相手がプレッシャーでつぶれてしまうほど工場労働者としては有能だ。が、それ以外は、ソバと稲荷寿司を食べすぎて脚気になったり、隣に住むオカマに言い寄られたり、汚い中華屋で店員の女とくっつけようとされたり、散々な人生を送っている。

スナックの女は、同僚が特殊な行動をとったり、彼氏がNYに行きフラれたり。それぞれはヘンテコな人生を送っている。大阪を舞台にしたちょっとおかしな人生を読むと、自然と笑みがこぼれてくるから不思議だ。

■ストーリー
冬の大阪ミナミの町を舞台にして、若々しく勢いのある文体で、人情の機微がていねいに描かれていく。天性の物語作者ならではの語り口に、最初から最後までグイグイと引き込まれるように読み進み、クライマックスでは深い感動が訪れる。このしょーもない世の中に、救いようのない人生に、ささやかだけど暖かい灯をともす絶望と再生の物語。

■感想
工場で働く男のパートは、なんだか奇妙な楽しさがある。工場勤務でそのことにぼやくかと思いきや、コンビを組む者たちがダメすぎたり、自分の実力についてこれないことを嘆く。いわば工場の歯車としてすばらしい能力を示す男だ。人生に嫌気がさしているような雰囲気はない。

コンビニの礼儀がなっていない店員の名前が読めないから、文句が言えないだとか。行きつけの中華屋で、なぜか店員の女とくっつけようとされたり。40代派遣労働者の陰鬱さよりも、大阪という場所でのヘンテコな生活を読まされているような感じだ。

スナックに勤務する女は、なにより同僚たちが特殊すぎて面白い。どこか異常さをただよわせる女たち。客が来てもマイペースで話続ける女や、金払いは良いが自分のお気に入りの女が他の客につくことをこの上なく嫌う男。

そして、金払いのよさそうな新規のグループがくると、ぼったくりだと文句を言われると、オーナーがゲロを吐き苦しんだフリをして相手を退散させる。なんだかめちゃくちゃなスナックだ。そんな店に勤務する女は、彼氏に逃げられ自暴自棄になりながら、大阪での奇妙な生活を続けている。

それぞれは幸せな生活を送っているわけではない。が、そこまで悪くないように思えてくる。大阪の町で自殺騒ぎがあり、ある男が飛び降りようとする。それが、40代の男の隣に住むオカマであることや、いつの間にか自殺騒ぎにより、スナック勤務の女と工場勤務の男が同じ場所に集まる。

ここで何か大きな変化が起きるわけではない。が、なんだか妙な面白さがある。大阪ミナミの独特な雰囲気と、そこで生活する底辺の者たち。コンビニで毎日ソバと稲荷寿司を食べて脚気になるからと、脚気になって自殺してやる、という思考も面白すぎる。

中盤以降からグイグイと引き込まれてしまう。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp