土の中の子供 


 2017.8.27      自暴自棄な主人公の物語 【土の中の子供】

                     
土の中の子供 [ 中村文則 ]
評価:2.5

■ヒトコト感想
芥川賞受賞作品。27歳の男が常に自虐的な行動をとる。生きることに対して執着がないというか、いつ死んでも良いような印象を受けた。幼いころの虐待が原因で無気力になったのだろう。文学的な評価はさておき、このキャラクターには冒頭から引き込まれてしまった。ただ、読んでいくうちにエスカレートする自虐的な雰囲気にちょっとマンネリ化してきた。

彼女らしき者もいるのだが、ふたりそろってどこか壊れている。生きることに前向きになれる作品ではない。何かに悩み苦しんでいる人には共感できるのだろうか。何か大きな救いや明るい気分になれる作品ではない。虐待されたことが原因として生に執着がなくなった男。自分とは別世界の話として読むには良い。

■ストーリー
27歳のタクシードライバーをいまも脅かすのは、親に捨てられ、孤児として日常的に虐待された日々の記憶。理不尽に引きこまれる被虐体験に、生との健全な距離を見失った「私」は、自身の半生を呪い持てあましながらも、暴力に乱された精神の暗部にかすかな生の核心をさぐる。人間の業と希望を正面から追求し、賞賛を集めた新世代の芥川賞受賞作。著者初の短篇「蜘蛛の声」を併録。

■感想
27歳の男が、その辺にたむろしているヤンキーたちにたばこの吸い殻を投げつける。当然、ヤンキーたちは激怒し男に襲いかかる。そうなることが分かっていながらの行動だ。ヤンキーたちに囲まれてボコボコにされる。殴られ蹴られている間にも、冷静に自分のダメージを確認する。

すべてを理解した上での行動。明らかにおかしい。普通ではない。まるで死に急ぐような行動の数々。のちに幼いころに受けた虐待が大きく影響しているとわかるのだが…。それだけでは説明できない、自暴自棄さがある。

彼女らしきものはいるのだが、これまた少しおかしい。心にキズを負った女と同居生活を続ける男。半ば義務のようにSEXをする。二人に愛のようなものがある描写はない。ただ、そこにいるから一緒に生活しているだけ。肉体関係ありの共同生活のような雰囲気だ。

自虐的な男と、メンヘラ気味な女。非常に危ういカップルだ。ただ、もしかしたら二人の相性は良いのかもしれない。それぞれが、お互いのことに干渉しないことが良い方向へと流れていくのだろうか。自虐的な男の痛々しさは、変わることはない。

短編「蜘蛛の声」は、同じく自虐的だが、より他者に対して攻撃的な面があるような印象を受けた。どこまでが真実でどこまでが妄想かわからない物語だ。もしかしたら、たまに発生する精神に異常をきたした人の犯罪というのは、本作のような内面なのだろうか。

2編の短編はどちらも暗い雰囲気となる。自分の精神状態によっては共感できるのだろうか。強烈なインパクトはないのだが、心にずしりと重くのしかかる不快な気持ちはある。自虐的な部分には思わず引き込まれるのだが、楽しい気持ちにはなれない。

自虐的なキャラクターは、強烈なインパクトがある。



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