追想五断章 米澤穂信


 2015.5.17      最後の一行で結末が変わる 【追想五断章】

                     
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■ヒトコト感想

古書店でバイトする芳光が、ある女性の依頼で5つの結末のない物語を探すことになる。作品を探す過程に特別な印象はない。同人誌や依頼者の死んだ父親の古い知り合いをたどり作品を見つけ出す。見つけ出した物語がなんとも不気味だ。結末がプツリと切れた状態で終わる。不幸な結末なのか、それともハッピーエンドなのか、そこまでの物語は不幸な香りしか感じない。

結末の一行は、依頼者の女性が知っている。何の脈絡もないと思われた5つの物語に、実は大きな意味があった。それは…。非常に深い作品だ。5つの物語のどれもが、奇妙な恐ろしさがあり、結末を読むとなおさら何か深い意味があるように思えてくる。物語を深読みできる人にはうってつけの作品だ。

■ストーリー

大学を休学し、伯父の古書店に居候する菅生芳光は、ある女性から、死んだ父親が書いた五つの「結末のない物語」を探して欲しい、という依頼を受ける。調査を進めるうちに、故人が20年以上前の未解決事件「アントワープの銃声」の容疑者だったことがわかり―。五つの物語に秘められた真実とは?青春去りし後の人間の光と陰を描き出す、米澤穂信の新境地。精緻きわまる大人の本格ミステリ。

■感想
5つの結末のない物語。内容的には物語を探すことから始まり、見つけ出した物語が描かれ、結末の一行が語られる。結末がないことにより、バッドエンドかハッピーエンドかわからないような物語となっている。ラストの一行により、結末が大きく変わる。

そして、作中ではほぼすべてがどこか物悲しいような一行が付け加えられている。5つの物語の作者が巻き込まれた「アントワープの銃声」事件の答えを示すヒントとなるようにも描かれており、深読みすることでかなり様々な楽しみを生み出すことができる。

秀逸なのは、物語の結末として一行が提示されるのだが、それが必ずしも正しいとは限らないということだ。別の物語の結末の可能性もあり、作中で示される別の結末が非常によくできている。というか、たった一行の文章ではあるが、あてはめる物語が変わることで、物語の結末が大きく変わってしまう

このたくみな二択により、物語の真相が闇の中に入り込んでしまう。アントワープの銃声事件の真相もまた、それぞれ読者の判断にゆだねられているような気がしてくる。

結局のところ、正解が何なのかはっきりとは明言されない。物語の結末が2パターン存在し、そのどちらかで物語の印象が大きく変わる。それはつまり、アントワープの銃声事件の真相へとつながってくる。ここまで複雑な内容を読み解くことを読者に求めているのだろうか。

すべてを確実に理解するのは非常にハードルが高いだろう。強烈なインパクトはなく、サラリと読み飛ばしてしまうと、5つの奇妙な物語が存在したというだけの話になってしまう。かなり読む人を選ぶ作品だろう。

ここまで複雑にしておきながら、その真相が明かされないのは、ストレスがたまるかもしれない。



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