2017.6.9 ここにだけ強い柔道が存在する 【東天の獅子 第4巻】
東天の獅子(第4巻) [ 夢枕獏 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
沖縄に渡った武田惣角が唐手と対決する。柔術と合気道の戦いに唐手が加わってくる。唐手の強者のすさまじい力と惣角の強者としてのオーラ。どちらが強いかの対決はワクワクしてくる。その後は、唐手は四朗と対決する。すでに4巻になっているので、強者同士の対決に慣れてきたというのがある。というか、ちょっとワンパターンに感じる場合がある。
柔術の対決ではひたすら組んでからの戦いだが、唐手となると、組む前の駆け引きがある。まるでアリ対猪木の対決のように、立ち技の打撃に対抗するためには体勢を低く、究極では仰向けに寝転ぶしかない。異種格闘技戦の流れをそのまま描かれ、激しい対決に決着がつく。そして、柔道へと続き物語は終わっていく。
■ストーリー
身体のあらゆる部位を必殺の武器となす琉球の武術「唐手」。二度目の「警視庁武術試合」で、保科(西郷)四郎の相手は唐手の使い手に決まった。しかし強さの頂点に迫る中で四郎は「闘うことがこわい」と告白する。骨が砕け、肉が潰れ、魂が軋む死闘をへて、苦悩の末に下した決断とは―。明治の武道界に嘉納治五郎が起こした革命の物語「天の巻」感動の最終巻。
■感想
作者のあとがきを読むと、当初の想定とはかなり変わった物語となったらしい。柔道が成り立つまでを触りだけ描くつもりが、いつのまにかそれがメインになっている。その理由としては、武田惣角の存在があるのだろう。
常に強者として存在し、いつでも戦える準備をする男。強者を求め、ついには沖縄で唐手と対決する。ここで惣角が唐手を学び、より強くなっていく。惣角と唐手の対決は読んでいてしびれてくる。そして、その先には唐手は四朗と対決することになる。
柔道を作り上げた嘉納治五郎は偉大だが、このシリーズの治五郎は目立たない。後半では横山や惣角、そして四朗が主役となっている。柔術から柔道へ。最後には四朗が柔道を引継ぐ形になる。そして、最後の最後まで武田惣角の強さが際立っていた。
本シリーズで唯一負け知らずなのは惣角だけだ。ある程度史実に基づいて描かれているはずだが、惣角だけがこれほどまでに別格な描かれ方をしているのは、常時戦場という強い思いがキャラクターとして立っているからだろう。
作者の格闘小説は、強者同士の対決という強烈なワクワク感が売りだ。実在した人物同士の対決となると下手なことは書けない。武田惣角のように究極に強さだけを求める描き方ができるのは、なかなかいないだろう。作中では柔道は唐手より強いと書かれている。
柔道の強さが異種格闘技での強さに繋がるとは思えない。それでも地面に相手を叩きつける柔道の投げ技は、一発で相手を殺すことができる。ただ、現在の格闘技シーンで、柔道の投げ技を試合中に決めることはほぼ不可能だろう。
強い柔道を思い起こさせる作品だ。
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