透明カメレオン 道尾秀介


 2015.8.9      人の悲しみを和らげる優しい嘘 【透明カメレオン】

                     
道尾秀介おすすめランキング


■ヒトコト感想

声はすばらしいが見た目がイマイチな恭太郎。いきつけのバーで楽しく過ごすはずが、ひょんなことから美女の言いなりになることに…。まず、恭太郎のキャラクターが、声は良いが容姿が普通より下で、たよりなく、気弱な青年という扱いをされている。偶然知り合った美女の恵に対して強く迫ることもできず、命令だけをこなす奴隷のような扱いを受ける。

恭太郎の頼りなさは、優しさの裏返しのように思えてくる。人の辛さや悲しみを和らげる嘘というのが物語のテーマだが、恭太郎の優しげな雰囲気がそれを強めている。恵が計画した復讐も、どこかほのぼのとしており、バーの仲間たちの特殊なキャラで、ユーモアあふれる作品となっている。

■ストーリー

ラジオのパーソナリティの恭太郎は、冴えない容姿と“特殊”な声の持ち主。今夜も、いきつけのバー「if」で仲間たちと過ごすだけの毎日を、楽しくて面白おかしい話につくり変えてリスナーに届ける。恭太郎が「if」で不審な音を耳にしたある雨の日、びしょ濡れの美女が店に迷い込んできた。ひょんなことから彼女の企てた殺害計画に参加することになる彼らだが―。陽気な物語に隠された、優しい嘘。驚きと感動のラストが心ふるわす―。

■感想
恭太郎と恵との出会いが特殊だ。恭太郎の声に惚れた恵。容姿に自信のない恭太郎はある仕掛けをする…。DJの恭太郎はラジオでエピソードトークをする際に、必ず嘘を交える。それをさも本当のことのように語り、リスナーを楽しませる。

恭太郎のトークの内容が、その後の物語に関係しそうで関係しない。恵に大きな秘密があるようでよくわからない。なんともモヤモヤした状況のまま、恭太郎は恵に言われるがまま復讐計画を実行していくことになる。

恵には何か大きな秘密がある。大どんでん返しが待っている、と期待して読み続けた。単純な復讐計画ではないと思いながら読むと、後半に明らかになる事実について、あまり驚きはない。想定通りというか、大どんでん返しではない。

恭太郎とバーの常連たちとのなんとも奇妙な復讐計画の手伝いが面白い。復讐内容の深刻さと、それにのぞむキャラクターたちのテンションの違いにより、ユーモアあふれる物語となっている。多少都合の良い展開となるが、復讐劇がハッピーエンドで終わるのは良い。

結末間近では、大きな嘘が暴かれることになる。明るく楽しく平和に暮らしてきたバーの常連たちや、恭太郎には実は大きな秘密があった。嘘で隠された真実なのだが、嘘には理由がある。ラジオのDJとして恭太郎がついてきた嘘には、相手に対する優しさがある。

辛く苦しい状況を覆い隠すような嘘。それを最後の最後に明かすというのは、物語としてのインパクトはすさまじい。メインの復讐劇が大したことないだけに、ラストの驚きはこの物語にとって最大のインパクトとなっている。

優しい嘘は、人の悲しみを和らげる効果がある。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp