鉄の骨 池井戸潤


 2016.3.13      談合の仕組みがよくわかる 【鉄の骨】

                     
鉄の骨 [ 池井戸潤 ]
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■ヒトコト感想
建設業界の談合を描いた作品。談合を必要悪として語る場合と、正義感にあふれ談合に反対すべきという流れもある。どれだけ現実の建設業界についてリアルに描かれているかわからないが、談合になる仕組みは把握できた。巨額の資金が動く公共工事では、入札における談合が当たり前になっているのだろう。作中で語られている内容は、非常に説得力がある。

中堅ゼネコンであればなおさら生き残りに必死になるのはわかる。会社命令で談合の場に送り込まれた平太の辛さはよくわかる。不正を働いているという認識がある状態で仕事をするのは辛い。物語として検察が談合を調査し、最終的な地下鉄工事での談合は行わるのか拒否するのか、最後までピリピリとした流れが続く物語だ。

■ストーリー

会社がヤバい。彼女とヤバい。次の地下鉄工事、何としても取って来い。――「談合」してもいいんですか?中堅ゼネコン・一松組の若手、富島平太が異動した先は“談合課”と揶揄される、大口公共事業の受注部署だった。今度の地下鉄工事を取らないと、ウチが傾く――技術力を武器に真正面から入札に挑もうとする平太らの前に、「談合」の壁が。組織に殉じるか、正義を信じるか。

■感想
建設業界の談合を描いた作品。中堅企業の平社員である平太が談合に直面し、その是非に悩む物語でもある。作者の得意な銀行がらみの話もでてくる。ゼネコンの経営状態が悪化したため、倒産を逃れるためには是が非でも受注するしかない。

そんな状態で頼りになるのは談合だ。確かにチキンレースのようにどこもかしこも、利益を度外視して受注に走ると建設業界はとんでもないことになるのだろう。ただ、業界の利益を守るために談合をしているのは確かだ。もっともらしい理屈を並べられてはいるが、納得はできない。

サブエピソードとして平太の恋人が銀行の先輩に恋をする、という流れがある。正直このあたりはどうでもよい。が、平太の恋人の激しい心変わりについては好感はもてない。平太の状況が厳しい状態にあるというのを印象付けるには必要なのかもしれないが…。

銀行がらみの話はいつものとおりだ。巨大公共事業を受注する際に、談合をまとめ上げるフィクサーの存在がある。フィクサーである三橋と平太が親しくなり、そこから談合の是非について平太は悩み苦しむ。平太の立場では会社の命令に従うしかないのは当然のことだろう。

画期的な技術で一番札をとれるほどコスト削減した一松組。平太は受注できると確信しているが、談合に参加せざるお得ない流れもある。検察が談合を捜査するという流れを絡ませながら、最後の最後まで一松組が談合に参加するのかしないのか、結論をぼやかしている。

何が正しいのかはわからない。ただ、談合する側の保証のない約束というのは、絶対的なものなのだろうか。今回は諦めて、一年後にもっと大きな工事を受注させてやる、という口約束にそこまで効力があるのか。不安要素しかないような気がした。

談合の仕組みが良くわかるのは間違いない。



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