2015.3.13 女子高生たちのひと夏の経験 【少女】
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■ヒトコト感想
これが自分が高校生のころとは比べ物にならないほど変化した、今の女子高生たちの日常なのか?人が死ぬ瞬間を目撃したことを自慢げに語り、見たことのない者はそれを悔しがる。女子高生たちの人間関係の複雑さは、容易に想像できる。少女たちが夏休みに経験する危険な出来事は衝撃的すぎる。複雑な家庭事情や、他人に対する悪意、そして他者へのライバル視。
秀逸なのは、無関係と思われた人物同士が、実は繋がっていたということ。生存率7%の手術を受ける子供のために、離婚した父親を探しだすことや、目的を達成するために、体を売ることすらいとわないなど、突き抜けた感のある女子高生たちだ。すべての繋がりが明らかになったとき、やけにさわやかな気分になるから不思議だ。
■ストーリー
親友の自殺を目撃したことがあるという転校生の告白を、ある種の自慢のように感じた由紀は、自分なら死体ではなく、人が死ぬ瞬間を見てみたいと思った。自殺を考えたことのある敦子は、死体を見たら、死を悟ることができ、強い自分になれるのではないかと考える。
ふたりとも相手には告げずに、それぞれ老人ホームと小児科病棟へボランティアに行く―死の瞬間に立ち合うために。高校2年の少女たちの衝撃的な夏休みを描く長編ミステリー。
■感想
表面上は親友同士の由紀と敦子。新たにグループに加わった転校生の告白から、関係は複雑化する。人が死ぬ瞬間を見るために、老人ホームのボランティアへ行く敦子。難病を抱えた子供が入院する小児病棟へ行く由紀。お互い秘密の行動だが、いつの間にか、ひそかな繋がりができている。
学校の裏サイトが存在し、そこで誹謗中傷が普通に行われる現代。昔よりもさらにイジメは陰湿化しているのだろう。そんな世界で心地良く生きるのは難しい。由紀や敦子の行動に共感はできないが、未知なるものへの興味ということであれば、理解できなくもない。
強烈なのは、それぞれの周辺事情だ。特に由紀は認知症を患った祖母のことを死んでほしいと願う。恋人との関係はドライで、子供らしい雰囲気はなく、世間に冷めた目を向けている。敦子は、ボランティア先のおじさんに付きまとい、その結果、老人ホームで様々な出来事を目撃することになる。
まったく無関係な場所でお互いの目的を達成しようとする由紀と敦子だが、思わぬところで繋がりが見えてくる。その後、おじさんが痴漢冤罪で離婚しただとか、手術に望む子供の父親は、ある出来事がきっかけで離婚しただとか、その後の流れを連想させるような真実が小出しにされている。
全ての繋がりが明らかになると、非常にすっきりとした気分になる。手術前の子供たちが計画していたことは非常に衝撃的だ。学校裏サイトに予告されたおじさんの殺人。それを敦子が見たことにより、衝撃的な結末となる。
不安定な女子高生たちではあるが、陰湿ないじめやエキセントリックな行動を描いた物語ではない。基本はまじめで両親との関係も良いのだが、どこか心に満たされない思いをもつ。それらの女子高生たちのひと夏の経験にしては、非常に密度の濃いものとなっている。
痴漢冤罪でおじさんの人生がめちゃくちゃになる部分は、他人事ではない思いで読みすすめた。
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