2016.1.23 子を持つ親には強烈な内容だ 【贖罪】
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■ヒトコト感想
15年前、静かな田舎町で起きた大事件。女児が殺される事件に居合わせた四人の女の子。彼女たちが成長する過程での出来事が、独白形式で語られている。作者お得意のパターンだ。一人目の独白では事件の全容は明らかとはならない。どんな人物が犯人なのか、目的は何なのか?それが二人目、三人目と語るうちに事件が見えてくる。
それぞれの女の子たちは、成長する過程で何らかのトラウマを心に植え付けられる。殺された女児の母親の辛辣な言葉による攻撃と、重い十字架を背負わされた苦悩。事件の関係者が次々と不幸な目に合うのは鳥肌が立ってくる。そして、最後に被害者の母親が独白形式で語ることにより、すべてが明らかとなる。
■ストーリー
15年前、静かな田舎町でひとりの女児が殺害された。直前まで一緒に遊んでいた四人の女の子は、犯人と思われる男と言葉を交わしていたものの、なぜか顔が思い出せず、事件は迷宮入りとなる。娘を喪った母親は彼女たちに言った―あなたたちを絶対に許さない。
必ず犯人を見つけなさい。それができないのなら、わたしが納得できる償いをしなさい、と。十字架を背負わされたまま成長した四人に降りかかる、悲劇の連鎖の結末は!?
■感想
ひとりの独白から事件が次第に明らかとなる。このパターンは作者の他作品でもよく用いられる手法だ。事件が不可解で、裏で何が起こったのか、意味不明な事件であればあるほど、このパターンは有効なのは間違いない。
仲の良い女の子同士が遊んでいる場所で、ひとりだけ男につれられ殺されてしまう。そこに何か因縁めいたものがあったのか。強烈な事件であり、架空の物語と言えども関係者の独白を読んでいくと心が辛くなる。傷口に塩を塗るような残酷な記述が多々あるのも特徴かもしれない。
最も衝撃的なのは、最初に登場する紗英の独白だ。フランス人形盗難事件から始まり、エリートと結婚して幸せな未来をつかんだはずが…。紗英の結末も衝撃的なら、結婚した相手の変態的な趣味も強烈だ。さらには、最初に事件の細部が語られたことも衝撃度をアップさせているのだろう。
幼い子供がなんの理由もなく狙われる。事件が起きた瞬間の、子供たちのテキパキとした動き。そして、親たちの混乱ぶりというのは、強烈なインパクトを残している。子供を持つ親からすると、あまりにショッキングな場面が目白押しで衝撃を受ける可能性がある。
紗英以外にも、特殊な人生を送る女性たちが描かれている。印象的なのは、義理の兄の子供を妊娠してしまう由佳の話だ。喘息もちの姉を両親は贔屓するために、姉にコンプレックスをもつ女性。その結果が兄を寝取るという暴挙にでる。
人に対する信頼感というか、何が人を暴挙に走らせるかわからない。客観的に見ると、そこまで不幸ではないように思えても、子供のころの事件がひとつ大きなきっかけになっていることは間違いない。あえて姉を苦しめるような行動にでる妹。強烈に厭な女が描かれている。
本作で最も強烈なのは、間違いなく被害者女児の母親である麻子だ。娘であるエミリが殺されたと知った瞬間の混乱。そして、現実を受け入れることができない苦悩。関係ないとはわかりつつも、一緒にいた四人の女児たちへ八つ当たりをする。
犯人逮捕に執念を燃やす前半。そして、四人の独白が終わった後に麻子自身の独白が始まる。そこまでで、犯人像はうっすらと浮かび上がっている。それが麻子とどのような関係にあるのか。麻子のパートは衝撃の真実が目白押しだ。
冒頭からショッキングな出来事が続く作品だ。
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