遮光 


 2017.9.26      恋人の指を持ち歩く異常者 【遮光】

                     
遮光 (新潮文庫) [ 中村文則 ]
評価:2.5

■ヒトコト感想
虚言壁があり感情の表現の仕方がわからない男が主人公。恋人の死を悲しみ、衝動的に死体から指を切り取り瓶に詰めて持ち帰ってしまう。純愛というよりも気持ち悪さが強い。さらには、男が感情をうまく表現できないが、他者におもねりそれなりの感情を表すのが恐ろしい。現実にもいそうなキャラクターだが、何をやり始めるかわからない恐怖感がある。

怒りの感情はないのだが、怒りの表情をし、自分で怒っていると思い込むと、いつのまにか怒りが本当に生まれてくる。周りにも虚言壁があると理解されており、そのことで何か感じることはない。ある種の精神的な異常者の内面のように感じてしまう。周りからすると、奇異な行動の内面とは、本作のような感じなのかもしれない。

■ストーリー
恋人の美紀の事故死を周囲に隠しながら、彼女は今でも生きていると、その幸福を語り続ける男。彼の手元には、黒いビニールに包まれた謎の瓶があった―。それは純愛か、狂気か。喪失感と行き場のない怒りに覆われた青春を、悲しみに抵抗する「虚言癖」の青年のうちに描き、圧倒的な衝撃と賞賛を集めた野間文芸新人賞受賞作。

■感想
周りからは恋人の美紀と仲睦まじいカップルと見られている男。実際には美紀は死んでいるのだが、それを隠して周りには美紀は海外で勉強しているとふれまわる。すでにこの時点で異常だ。極めつけは、美紀の死体を目の前にすると、衝動的に指がほしくなる感覚だ。

指を焼き切りポケットに入れて部屋をでていく。ポケットに入り込んだ指の重みを感じたり、職員に問い詰められたりと、異常な状況は続いていく。恋人の指を常に持つことにどのような意味があるのか。ちょっとした性癖的に感じてしまう。

虚言癖というよりも、思い込みなのだろう。感情を表現することが苦手で、感情を装う。怒りを装うことから始まるのだが、怒りで相手を蹴り続けていると、それがエスカレートし本当に怒りの感情がわいてくる。まるで子供のような不安定さだ。

他者からすると奇妙で何を考えているかわからない人物なのだろう。美紀のことをひたすら友達に話す男。頭の中では美紀が海外で勉強していることが当然のことであり、それが正常だと思い込んでいる。ただ、頭の片隅では、美紀の指が瓶に詰められていることをしっかりと理解している。

死んだ恋人の指を後生大事に持つことは純愛なのか。男は美紀の友達を誘ったりもする。当然、友達は美紀がいるからと拒否をする。男の感情の動きは、まさに精神に異常をきたした者の動きのように思えてしまう。

常人では理解できない境地だからこそ、他者からは虚言癖のある人物と理解されるのだろう。パッと見はごく普通の青年だとしても、心の奥底で何を考えているのかわからない。強烈なインパクトはないのだが、もしかしたら身近にもこのような人物がいるのかも、と思えてしまう。

恐ろしいまでの異常さだ。



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