空飛ぶタイヤ 上 池井戸潤


 2015.11.17      三菱自動車をモデル? 【空飛ぶタイヤ 上】

                     
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■ヒトコト感想

明らかに三菱自動車をモデルとした本作。リコール隠しの実態をまるでリアルな出来事のように描いている。本作ではハブの欠陥により事故を起こした車両を所有する運送会社の経営者が主人公となっている。作者のパターンとして、経営者である赤松が巨大企業と闘う、という流れは容易に想像がつく。

本作では企業内部からも、問題提起し内部告発的な流れも描かれている。さらには週刊誌記者による外部からの圧力もあり、ジリ貧の状態である自動車企業が、どう立ち回っていくのか。ある程度現実の結果を見ると内容は想像がつく。だが、企業の理論を強引に振りかざす大企業に対して、立場が弱い者たちがどのようにして戦っていくかが非常に興味をそそられる部分だ。

■ストーリー

走行中のトレーラーのタイヤが外れて歩行者の母子を直撃した。ホープ自動車が出した「運送会社の整備不良」の結論に納得できない運送会社社長の赤松徳郎。真相を追及する赤松の前を塞ぐ大企業の論理。家族も周囲から孤立し、会社の経営も危機的状況下、絶望しかけた赤松に記者・榎本が驚愕の事実をもたらす。

■感想
作中では三菱のことをホープと言い換えており、ホープ自動車にホープ銀行などが存在する。現実の事件をモデルとし、死亡事故を起こしてしまった運送会社がどのようにして大企業と闘っていくかが描かれている。本作を読んでいると、当時の騒ぎをなんとなくだが思い出してしまった。

一度リコール隠しで激しく世間から叩かれておきながら、さらに新たなリコール隠しを行う。そこにはどのような起業的な理論があったのか。作者の描くホープ自動車内部は、非常にリアリティにあふれており、権力をつかんだ者の横暴には怒りすら覚えてしまう。

経営者の赤松と、ホープ自動車側担当者として登場する沢田のやりとりもまた本作のポイントだろう。赤松に対しては企業の理論を振りかざす沢田。かと思えば、内部的に力を持つ品質保証部を壊滅させようと躍起になる。いち課長が、その会社を転覆させるほどのネタをつかんだとき、人はどのような行動にでるのか。

安定した生活を守るため、見て見ぬふりをするのか。それとも正義に突き動かされ、暴露するのか。本作の沢田は正義の気持ちは少ない。それよりも、権力の中枢にいる者たちを追い落とそうという気持ちが強い。

上巻では、赤松側が有利なような流れができている。現実の結末と同じようになるのだろう。ただ、そこに至るまで、大企業の権力者たちがどのような謀略を練るのかが楽しみだ。恐らくだが、想像を超えた、ヘドがでるような策略を使ってくるのだろう。

それらの悪あがきは、結局のところ弱い者たちの一致団結した力により破壊されるのは目に見えている。このあたりの壮大なカタルシスが作者の作品の魅力でもある。現実の事件をモデルとすると、各方面からクレームがこないか?と心配になるほど丸わかりな内容だ。

結末へ向かう流れが楽しみで仕方がない。



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