しずく  


 2017.4.22      無理をやめた女のすっきり感 【しずく】

                     
しずく [ 西加奈子 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
不思議な雰囲気のある6つの短編が収録された本作。表題作である「しずく」以外はすべて女性目線の物語だ。作者である西加奈子の思いというか、実体験的なものもあるのだろうか。「木蓮」などは、嫌な子供に対する鬱憤や暴言などは、作者の思いが詰まっているようだ。主人公の女性が結婚に焦り、バツイチ子持ちの40代の男でもハンサムだからと意地でも逃さないように必死になる。

女性ならではの考え方が短編につまっている。「灰皿」などは割と衝撃的な内容であり、女性であれば嫌悪感を抱くかもしれない。それらをひっくるめて西加奈子らしいと言えばらしい作品だ。女性の人間関係の複雑さや、悩み苦しみなど、男では知れない部分が描かれている作品だ。

■ストーリー
迷っても、つまずいても、泣きそうでも。人生って、そう悪くない。「幼なじみ」「三十女と恋人(バツイチ)の娘」「老婦人と若い小説家」「旅行者と嘘つき女」「二匹の雌猫」「母と娘」少し笑えて、結構泣ける、「女どうし」を描く六つの物語。

■感想
「灰皿」は強烈な作品だ。おばさんが主人公だが、自分の家を貸すことになった若い小説家の「坂崎ゆう」との絡みが描かれている。この坂崎ゆうの処女小説がすさまじい。実体験を描いているらしく、彼氏がスカトロマニアだからと…。そんな内容が描かれている。

作中のおばさんと同じような反応をする読者は多いことだろう。それにしても作中の小説のインパクトと、その後の流れの平穏さの落差がすさまじい。いきなりスカトロのことを告白されても戸惑うしかない。

「木蓮」は、西加奈子が普段から思っていることを登場人物に代弁させたのだろうか。結婚にあせる中年女が彼氏の子供を一日面倒をみる。オーガニックかぶれの家族に合せ、無理していた女は、反抗的な子供の態度についにブチ切れることになる。

今まで溜まりに溜まった鬱憤がすべて吐き出されるような子供に対する対応がすごい。そして、全ての気持ちを吐き出したところ、逆に子供の方も心を開いてくれたというのは良い。読後感としても無理をやめた女のすっきりとした感覚が伝わってきた。

表題作でもある「しずく」は、同棲カップルがそれぞれ飼っていた猫目線の話だ。今まで別々に暮らしていた猫たちが、飼い主同士が同棲したことで一緒に住むことになる。喧嘩しつつも仲の良い二匹。飼い主たちの状況の変化を猫目線で語るのが、なんともしんみりとした気持ちになる。

いずれ別れるであろう流れを、猫たちは何も知らずただ見たことを語る。最後に離れ離れになる二匹の悲しみを理解していないそぶりというのは、妙なさみしさがある。

女性目線の作品だが、必ずしも女性におすすめなわけではない。



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