白ゆき姫殺人事件 湊かなえ


 2015.5.14      世間の流れの恐ろしさ 【白ゆき姫殺人事件】

                     
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■ヒトコト感想

美人OLの黒こげ殺人事件。ミステリアスな事件というわけではない。週刊誌のフリーの記者が、OLの同僚たちへの聞き込みから容疑者が浮かび上がるという物語だ。ポイントとなるのは、ネットの情報を駆使すると共にSNSで容疑者の情報があることないことすべてが蔓延し、ある容疑者が浮かび上がった時には、すべての情報が、容疑者が完全な犯人だという方向へと流れていく。

世間の流れが情報までも制御してしまう恐ろしさを感じる部分だ。事件自体はごく普通の殺人事件のため、最後まで読むと、なんてことない作品のように思えてしまう。ただ、容疑者の人となりをご近所の人が答える部分は、寒気を感じるほど恐ろしくリアルだ。

■ストーリー

化粧品会社の美人社員が黒こげの遺体で発見された。ひょんなことから事件の糸口を掴んだ週刊誌のフリー記者、赤星は独自に調査を始める。人人への聞き込みの結果、浮かび上がってきたのは行方不明になった被害者の同僚。ネット上では憶測が飛び交い、週刊誌報道は過熱する一方、匿名という名の皮をかぶった悪意と集団心理。噂話の矛先は一体誰に刃を向けるのか。傑作長編ミステリー。

■感想
化粧品会社のOLが殺される。美しい容姿から注目をあび、容疑者との関係がメディアを騒がせる。世間の殺人事件の報道を見ているような気分になってくる。警察の捜査とは別に、週刊誌の記者が独自に調査をする。

それは同僚や容疑者の御近所さんから情報を集め、誰が犯人かと限定はしないまでも、知っている人が読めばすぐに誰のことをいっているのかわかるような記事を書き上げる。ひとつ決まったルートができてしまうと、世間の風評というのは、そこから別の結論を出すことのむずかしくなる。

容疑者として浮かび上がった被害者の同僚OL。この同僚の日々の生活から、会社での仕事態度までを同僚やご近所の人たちが、子供のころまでさかのぼり語っている。ひとつの先入観から、犯人に仕立て上げられた場合、まったく関係のない行動でも勝手に紐づけられてしまう。

そして、ご近所の人たちは、週刊誌記者の問いかけに対して、決して否定せず、記者の思いをさらに強めるようなエピソードを探し出し声高に叫ぶ。取材に答える形で様々な人物が容疑者について語っているが、まさに犯人はこの人物しかいないと思わせる説得力が作り上げられている。

現代の事件ではマスコミ報道以外にもSNSなどのネットの情報が強烈な力を持つ。本来なら警察しか知りえない情報がどこからか漏れ出す。ひとたび容疑者とされると、すぐに本名があぶりだされる。本作自体は冤罪事件のことについて語る物語ではない。が、容疑者とされた人物が犯人ではないと否定する材料は結局登場してこない。

真犯人が捕まるまで、また捕まってからも、事件に関係した人物として探られたくもないプライベートな部分を多くの人に知られることとなる。ネット社会の恐ろしさを感じずにはいられない作品だ。

メインの事件よりも、容疑者のプライベートが周りからあぶりだされることの恐ろしさを感じた。



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