新・餓狼伝 巻ノ三 夢枕獏


 2016.12.23      なでるだけで相手を転ばせる 【新・餓狼伝 巻ノ三】

                     

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■ヒトコト感想
また新たな強者が登場する。磯村露風の弟子である京野京介が登場する。天才的なバランス感覚で相手をいとも簡単に転ばせてしまう。京介と松尾象山の出会いから始まり、どのような能力があり力を付けてきたかが描かれている。素人時代から生卵の尖った方を下にして2秒で立てることができるバランス感覚をもつ男。

磯村露風は合気道をメインとした男なのだろう。底が見えず、松尾象山と戦おうとする男。強さの序列的には、松尾象山には敵わないのだろうが、かなり上位なのは間違いない。そして、京介がどのあたりの序列なのか。文七や姫川と同列のような描写すらある。新たな強者が登場したことで、また餓狼伝の世界は混沌としてくる。

■ストーリー
函館で松尾象山は天才的なバランス感覚をもつ青年と出会う。一瞬でこの漢・京野京介に魅了された象山は、京野の師である磯村露風とともに、暴力団に拉致され暴行を受けていた京野を救い出した。時を経て、ボクシングのプロテストで京野はアマチュアの金メダリストをぶち破る。

試合後に露風は、京野らと格闘技の「世界征服」を目指すと宣言した。露風はさらに、丹波文七を「ヤマト商店」なる場所へ招いた。そこは八年前、文七が梶原年雄と闘い敗れた因縁の場所だった―。

■感想
数々の強者同士の対決が描かれ、その序列が明らかとなってくる。どちらかというとプロレスは下位になり、上位の人物は松尾象山や磯村など高齢と言えるような人物たちばかり。そこに姫川や文七、そして、新たに登場した京介が絡むことになるのだろう。

磯村露風の軍団がどれだけの力をもっているのか。前回での関根の強さを考えると、師匠である磯村はとてつもなく強いのだと想像できる。このあたり、京介は素材的には磯村をもしのぐほどの才能の塊のような描写もある。

本作では京介の登場から詳しく描かれている。普通のバーテンダーがとてつもない能力をもつ。その能力に惹かれた磯村と象山。ボクシングの試合で相手を軽くなでるようにパンチするだけで、相手は転んでしまう。それはバランスの崩れを見逃さない京介の能力だ。

合気道をベースとした古流武術なのだろう。磯村の強さはどの程度かわからないが、象山といい勝負をするくらいの実力はあるのだろう。姫川と磯村の軽いゲームのような対戦であっても、その計り知れない能力の全容は明らかとならない。

磯村が目指すのは格闘技の世界征服らしい。となると、磯村のチームと姫川や文七の戦いは避けることができない。過去に文七に勝ったことのある梶原が登場するが、どうも強さの序列でいうとだいぶ下のようなイメージをもった。筋肉を売りにするプロレスラータイプは、割と噛ませ犬になるパターンがある。今回も関根との対決で梶原は靭帯をやられてしまう。

普通に戦っていれば負けていたことだろう。このシリーズの流れとして、絶対的な強者は別として、現代格闘は序列が下になりがちだ。現代の格闘技よりも古流からの流れを引き継ぐ武術の方が、より強く描かれている。

新たな強者が登場し、物語はより混沌としてきた。



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