さくら 西加奈子


 2016.9.22      ごく普通の家族だが、それぞれに強い個性がある 【さくら】

                     


■ヒトコト感想
五人家族と1匹の犬。タイトルのさくらは犬の名前だが、別にサクラが中心の物語ではない。三人兄弟の真ん中が風変りな兄と妹の状況を語る物語だ。冒頭から出て行った父親が戻ってくるという流れがある。まだ家族構成や関係性がわからないまま、物語はすすでいく。そこから妹が生まれ、サクラが家にやってくるところからスタートする。
      
どこか風変りな家族だ。兄は常にモテモテで明るいごく普通の子供である。妹はブラコンで兄に対して恋心をいだく。父親は真面目で母親は性にオープンで少しだけ変わっている。多感な時期に様々な出来事が起こり、主に兄と妹がどのような行動をとるかが描かれている。ごく普通と言ってしまえば、そうかもしれないが、人を惹きつける魅力のあるキャラクターたちだ。
      
■ストーリー
両親、三兄弟の家族に、見つけてきたときに尻尾に桜の花びらをつけていたことから「サクラ」となづけられた犬が一匹。どこにでもいそうな家族に、大きな出来事が起こる。そして一家の愛犬・サクラが倒れた--。
  
■感想
ごく普通の家庭にサクラと名付けられた犬が一匹いた。家族構成は両親と男二人に女一人の三人兄妹。小さいころからモテモテの兄と、兄とは似ても似つかない弟。そして、兄のことを愛してやまない美しい妹。ごく普通と言えば普通かもしれない。
  
兄の恋愛の話や両親のセックスの話など、普通の中にもちょっとした過激な内容が含まれている。が、どこの家庭にもひとつやふたつは過激な部分があるのだろう。子供たちの成長を追いかけながら物語はすすんでいく。サクラは合間に家族たちへ可愛らしいしぐさを送る。
  
サクラは家族の中でオマケ的扱いではあるが、それでも中心に添えられる時がある。兄の彼女が遊びに来る前には、嫌がるサクラを無理やり風呂に入れ、ふわふわのピカピカにしてしまう。初めて家に兄の彼女がやってくるとわかると、浮足立つ家族たち。このソワソワ感はどこの家族にもありえることだろう。
  
兄が大きな事故に遭い、下半身不随で顔の半分がぐちゃぐちゃになる。そうなった時、家族はどうなるのか。疲れ切った父親やブクブクと太る母親など、家族の変化がやけにリアルに語られることになる。
  
ごく普通の家族であっても様々な出来事が起こり、強烈なインパクトのあるイベントが起こる。サクラが苦しそうに倒れた時、家族たちは大慌てとなる。そこで家族の一体感というか、普段は頼りない父親がここぞとばかりにたくましさを見せる。
  
極度に悲しい出来事や、驚くことが起きたとしても、意外に家族は普通と変わらないのかもしれない。エキセントリックな妹。小説作品として描かれると、なんだか非現実的なように思えてしまうが、平凡そうに見える家族にも内部ではそれなりに事件や問題があるのだろう。
  
キャラクターの魅力により読者を惹きつける力がある。



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