2017.9.9 強烈に暗い気持ちになる 【最後の命】
最後の命 (講談社文庫) [ 中村文則 ]
評価:3
■ヒトコト感想
なんとも言えない暗い気分になる作品だ。幼いころにホームレスが女ホームレスをレイプする現場を目撃した男と幼馴染の冴木。そのことがトラウマとなり常に男の心に付きまとうことになる。主人公と冴木が7年ぶりに再会したことで物語は動き出す。主人公が家に帰ると、そこには女の死体があった。容疑者は冴木ということになる。
幼少期の経験がトラウマとなり、冴木を狂わせる。成長しレイプ魔となった冴木と、自分を取り戻すことに成功した主人公。幼少期から成長するまで二人に何があったのかが語られている。非常に心が重くなる作品だ。主人公がトラウマにより性的に不能になるが、少しずつ変わっていく。対して冴木は逃れようのない道へとすすんでいくことになる。
■ストーリー
最後に会ってから七年。ある事件がきっかけで疎遠になっていた幼馴染みの冴木。彼から「お前に会っておきたい」と唐突に連絡が入った。しかしその直後、私の部屋で一人の女が死んでいるのが発見される。疑われる私。部屋から検出される指紋。それは「指名手配中の容疑者」である、冴木のものだと告げられ--。
■感想
幼いころの衝撃的な体験が、その後の人生に大きく影響する。主人公と冴木は幼馴染だが、秘密基地の近くにたむろするホームレスたちの集団レイプ現場を目撃してしまう。幼い子供ながらに何が行われているか理解する二人。そして、ホームレスに脅されることになる。
幼少期の強烈な経験は、その後のトラウマとなる。表向きは明るく爽やかなスポーツマンへと成長する冴木。対して主人公はごく平凡な青年時代を過ごすのだが、心には常に暗雲が立ち込めている。非常に暗い雰囲気が物語全体に漂っている。
主人公はトラウマによりセックスに失敗続きとなる。そこから、トラウマを克服するためにさまざまな試みをし、実際にトラウマを克服してしまう。それでも、心の中のモヤモヤが晴れることはない。冴木はまっとうな青春時代を過ごしているかと思いきや…。
実際には主人公以上にトラウマに囚われていた。幼少期のひとつの経験がその後の人生に大きな影を落とす。非常に恐ろしい流れだ。登場人物に感情移入できる類の作品ではない。作者の作品全般に共通している、どこか投げやりな暗さのようなものを感じずにはいられない。
主人公と冴木が7年ぶりに再会してからの流れは、ちょっとしたミステリー的だ。幸せな生活を送っていたと思われた冴木。対して人生に悲観的になり、夢も希望もなくなった主人公。それでも、冴木が実は連続婦女暴行犯だということが衝撃的な流れとなる。
後半では冴木の独白形式でことの真相が語られている。冴木がどのような思いで過ごしてきたのか。そして、抑えることができない衝動と、主人公に目撃されたある出来事が最後の最後までひっかかっていたこと。二人の存在自体がトラウマをより根深いモノにしている。
強烈に暗い気持ちになる作品だ。
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