サファイア 湊かなえ


 2016.3.12      宝石をテーマとした短編集 【サファイア】

                     
サファイア [ 湊かなえ ]
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■ヒトコト感想
宝石をタイトルとした短編集。不思議な雰囲気の作品もあれば、ミステリー的な作品もある。昔話的な物語や、心温まる物語などサラリと読めるが印象に残る内容が多い。物語の登場人物たちはみな様々な状況での出来事となる。隣に犯罪歴のある高齢者が収容されている福祉施設がある家や、お見合いパーティーで運命の人にであった男の物語などがある。

さらには表題作については、隣の家の家族の恥部をストーカーのごとく他の家族におせっかいに知らせる女性の話など、バラエティに富んでいる。特に「ムーンライト」は読者の裏を書く流れとなり、最後に「そうだったのか?」というさわやかな驚きが待っている。ひとつひとつの作品は短いが強く印象に残るものが多い。

■ストーリー

あなたの「恩」は、一度も忘れたことがなかったーー「二十歳の誕生日プレゼントには、指輪が欲しいな」わたしは恋人に人生初のおねだりをした……(「サファイア」より)。林田万砂子(五十歳・主婦)は子ども用歯磨き粉の「ムーンラビットイチゴ味」がいかに素晴らしいかを、わたしに得々と話し始めたが……(「真珠」より)。人間の摩訶不思議で切ない出逢いと別れを、己の罪悪と愛と夢を描いた傑作短篇集。

■感想
「猫目石」は、隣人の坂口という女性が、猫を探すことから知り合いとなり、家族の隠された秘密を他の家族に伝え始める。最初は家族それぞれに秘密があり、それを隠しながら静かに幸せな家庭を築いていたはずが、お互いの秘密を知ることでほころびが見え始める。

坂口の行動というのは、客観的には悪気があるようには思えない。ただ、家族からすると、知らないで済むならば知らないでおきたいことだ。結末としては、なぜか家族がそれなりにうまくいった状態ではあるが、坂口の結末を見ると、非常に恐ろしくなる。ラストのコメントがいやに恐ろしい。

「ムーンストーン」は、最も印象に残り、そしてさわやかな読後感がある。市議会議員の妻が夫を殺し、弁護士として有名な女性弁護士がやってきた。そこで過去の回想が始まり、虐められていた女の子とクラスのリーダー的女の子の話が始まる。

イジメをうけていた女の子が変わっていく物語は非常に心温まる流れだ。意識せずして相手をイジメている場合もある。イジメを克服した女の子とそれを手助けしたリーダー的な女の子。その子が成長した姿が、女弁護士かと思いきや…。非常に読後感がさわやかな作品だ。

「サファイア」とその後にあたる「ガーネット」は、謎のまま終わった物語を、謎めいたまま最後は読者の想像にまかせている。真実は中瀬と出会い、化粧をして自分を着飾ることを知るが、中瀬の死を知り悲しむが、その後、中瀬の死の原因を知ることになる。

悪徳商法のようなことをしていたと知り悲しむ場面と、その後、だんだんと事の真相が判明してくる流れがすばらしい。女性の激しい嫉妬の恐ろしさはすさまじい。それは時に人をあっさりと死にいたらしめるほどの力があるのだろう。

それぞれパターンの違う短編だが、強烈な個性とインパクトがある



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