サーモン・キャッチャー the novel  


 2017.5.29      人生に悲観した釣りの神 【サーモン・キャッチャー the novel】

                     
サーモン・キャッチャー the Novel [ 道尾秀介 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
最初はまったく関係がないと思われた複数の物語が、繋がりができ、最後にはひとつの結末へと向かう。読んでいる間中、伊坂幸太郎の作品ではないかと思うほど、伊坂作品に雰囲気が似ていた。登場人物たちの小粋な会話と、ヘンテコな状況。特殊な特技を持つ者と、人生に悲観した人物や、妙に謎の多い人物など。

釣り堀「カープ・キャッチャー」を中心として、釣り名人やヒツギム語を勉強する女子や他者との関わりを避ける男や、娘との関係に悩む父親など、キャラクターは多種多様だ。物語のカギになるのは、高価な鯉だ。金持ちおばさんがエキセントリックな行動をとるために、周りがそれにより右往左往していく。最後に丸く収まるのもまた、伊坂作品っぽい。

■ストーリー
君の人生は、たいしたものじゃない。でも、捨てたものでもない。場末の釣り堀「カープ・キャッチャー」には、「神」と称される釣り名人がいた。釣った魚の種類と数によるポイントを景品と交換できるこの釣り堀で、もっとも高ポイントを必要とする品を獲得できるとすれば、彼しかいない、と噂されている。

浅くて小さな生け簀を巡るささやかなドラマは、しかし、どういうわけか、冴えない日々を送る六人を巻き込んで、大きな事件に発展していく―

■感想
釣り堀「カープ・キャッチャー」を中心として複数の物語がつながっていく。序盤ではそれぞれの登場人物たちの現在の状況が語られている。印象深いのはカープ・キャッチャーを縄張りとした釣りの神と言われている男だ。

無気力な生活の中で、スナック菓子が欲しいためだけに、カープ・キャッチャーで鯉を釣り上げ、そのポイントでスナックを手に入れようとする。さらには、オーブンが欲しいからと、朝から晩まで鯉を釣り続け、ついにはポイントをためてオーブントースターを手に入れてしまう。ポイント制釣り堀のヘンテコさが凝縮された場面だ。

カープキャッチャーで不正を働こうとする者。カープキャッチャーで恐怖動画を撮影し、賞金を貰おうとする者たち。カープキャッチャーでバイトする者。すべてがカープキャッチャーに繋がっていく。ヒツギム語を勉強する女子が、トラブルに巻き込まれ、バイト先であるカープキャッチャーにもその追ってが迫る。

金持ちおばさんの鯉が行方不明になったのは、カープキャッチャーで不正を働こうとした男が池から盗みだしたから。最初は単独のエピソードも次のエピソードと繋がっていき、次々と繋がりが明らかとなる。

ラストでは全てのキャラクターが一堂に集まる。ここですべてを精算するようなドタバタがあり、結局のところすべてが丸く収まる。そして、オマケ的に様々な小ネタが用意されている。多数の伏線がちりばめられており、それらが最後にちゃんと回収されるのが良い。

ヒツギム語を話すアイドルの出自までもきっちりと回収しているのが良い。あのキャラとあのキャラが実は繋がっており、あのキャラのあの行動が原因であのキャラが困っている。なんてのがすっきりと整理されわかりやすく描かれている。

伊坂幸太郎作品が好きな人は、確実に楽しめるだろう。



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