ルーズヴェルト・ゲーム 池井戸潤


 2015.11.11      一致団結して危機を乗り越える 【ルーズヴェルト・ゲーム】

                     
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■ヒトコト感想

企業の野球部の存在意義や、会社は誰のモノかなど、作者得意の企業経営を絡めながら描いた本作。経営者目線での考え方と、末端の派遣社員や野球部員として活動する者たちの考え方。それぞれの思いが錯綜し、中小企業の生き残りを賭けた戦いが描かれている。まず、青島製作所が業績不振に陥る過程が非常にリアルで恐ろしくなる。

主要な取引先の一声で、一気に売り上げが激減する。コスト削減要求や、ライバル企業との競争など、常に神経をひりつかせるような日々が続く。中小企業の経営者とはなんて大変なんだと思わずにはいられない。野球部に所属する派遣社員たちにしても、会社のコスト削減策として野球部が廃部にされた瞬間に、無職となる。非常につらく苦しい状況というのが伝わってくる作品だ。

■ストーリー

大手ライバル企業に攻勢をかけられ、業績不振にあえぐ青島製作所。リストラが始まり、歴史ある野球部の存続を疑問視する声が上がる。かつての名門チームも、今やエース不在で崩壊寸前。廃部にすればコストは浮くが――社長が、選手が、監督が、技術者が、それぞれの人生とプライドをかけて挑む「奇跡の大逆転(ルーズヴェルト・ゲーム)」とは。

■感想
身につまされるというか、中小企業経営の厳しさや、派遣社員の苦しさがリアルに描かれている作品だ。ひとつの主要取引先の方針転換で、そこにぶら下がる形の中小企業は大きな影響を受ける。コストを削減しなければ、別の業者に発注すると言われれば従うしかない。

まさに奴隷のような状況だが、これが中小企業の実情なのだろう。そんな厳しい経営環境にいる青島製作所の野球部員たちの物語がメインに描かれている。社内でリストラが始まり、多くの社員が首を切られている。そんな状況で、野球部として存続すべきか問題になるのは当然のことだろう。

野球部の状況もまた複雑だ。成績が良くなく、ライバル企業には連敗中。さらには選手を引き抜かれ、よくわからない監督が就任する。野球部としてジリ貧な状況でありながら、復活をめざし活動していく。午前中だけ仕事をし、午後からは練習に明け暮れる日々。

よくわからないが、確かに負け続きの野球部員からすると、肩身の狭い思いはするだろう。青島製作所の派遣社員の中で、過去名門高校野球部員として活動した者がおり、その者の活躍で盛り返す。典型的なスポコンモノ的な要素もある。このあたりが企業経営と相まって良い味をだしている。

ライバル企業の執拗な攻撃と、株主たちからの厳しい要求。経営者の理論と技術者の理論の対立もある。お決まりどおり、一発逆転があるのでラストはすっきりとした終わり方となる。ただ、突然経営環境が変わり、廃部予定の野球部が都合よく存続する、なんてことにならないのが良い。

企業としてコストカットする部分は妥協しないという流れと、夢のある展開。しいたげられた者たちが、一致団結して危機を乗り越える。この流れが池井戸作品の醍醐味なのだろう。

中小企業経営者の苦労が嫌というほどよくわかる作品だ。



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