リンカーン


 2016.7.20      大統領として、そして父親として 【リンカーン】

                     
リンカーン [ ダニエル・デイ=ルイス ]

■ヒトコト感想
南北戦争と奴隷解放について描かれて作品。このあたりの歴史的事実についてはそれほど詳しくはない。が、リンカーンが奴隷を解放しようと奮闘し、そのために汚い工作を行っていたということはよくわかった。合衆国大統領としてのリンカーンと、父親としてのリンカーン。それぞれで葛藤し、さらには奴隷解放の憲法を可決させるために議会で多数派工作にでる。

政治的な駆け引きは非常に泥臭い。選挙で落選した者に就職をあっせんするだとか、議会での多数派工作での闇の部分もしっかりと描かれている。奴隷制度はとんでもないものだが、奴隷を財産と考えていた者たちからすると、突然それを取り上げられるのはとんでもないことだということもよくわかる。

■ストーリー

1865年1月、奴隷解放の賛否をめぐり起こった南北戦争は4年目に突入し、多くの若者の命が奪われていた。“すべての人間は自由であるべき"と信じるリンカーン大統領は、自由実現のために憲法修正が必要だと考え、合衆国憲法第13条を議会で可決させるべく、なりふり構わぬ多数派工作を進めるのだった。しかし、長期化する戦争の影響で形勢は極めて不利になるが、リンカーンはあらゆる策を弄して敵対する議員の切り崩しにかかる。

そんな中、息子ロバートは父の反対を押し切り軍に志願し北軍に入隊してしまい一人の父親としても大きな試練に直面していくのだった。自分の理想のために失われていく多くの命、人間の尊厳と戦争終結の狭間に立たされたリンカーン。合衆国大統領として、一人の父として、国家の危機を乗り越えることができるのだろうか――。

■感想
まずなによりリンカーンの風貌が本物と見まがう程の見た目に驚いた。苦み走った表情で国家が危機を乗り越えるため苦悩する。南北戦争での激しい戦いに息子が志願すると言い出した時の表情は、まさに普通の父親だ。ひとりの父としては息子を戦争へは向かわせたくない。

それらの葛藤が強烈に表情に表れている。自分の理想のために戦争が起こり、その結果、多くの命が失われていく。そこに息子が含まれるべきか…。歴史的な転換期ではあるが、国家のトップの決断の辛さを思い知らされる場面だ。

奴隷制度をなくすために力を注ぐリンカーン。議会で法案を可決させるために、あらゆる工作を行う。人種差別的な行為は許されることではない。人種差別の究極の形が奴隷制度として存在し、奴隷自体を財産とみなしていた時代に、奴隷制度を撤廃するような法案を可決させるのは並大抵のことではない。

党の内部でも賛否があり、さまざまな条件を付け、法案を可決させるために必死になるリンカーンたち。ラストの議会の場面はまさに鳥肌ものだ。そして、結果が出た後の南北の幹部会談もまたすさまじい。

悲惨な南北戦争。そして、奴隷制度の撤廃。その時代では当たり前であった制度を変えることは難しい。それが間違いだと気づいていながらも、一歩を踏み出すことはできない。リンカーンたちの思想に共感しての一票ではない。

強引な手法ではあるが、物事を前にすすめるためには必要な手段なのだろう。買収工作により法案が可決された、なんてことが明るみにでれば大問題なのだろう。今なら、その法案自体にケチがつくかもしれない。それほど危険な賭けにでる必要があったのだろう。

ラストの議会の場面は思わず鳥肌が立ってしまう。



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