リカーシブル 米澤穂信


 2015.3.5      恐ろしい町ぐるみの犯罪 【リカーシブル】

                     
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■ヒトコト感想

リカーシブルのタイトルは、プログラミング用語の再帰的からきているのだろう。再帰的、つまり繰り返すこと。ハルカの引っ越し先の町で繰り返される奇妙な儀式。冒頭からハルカの弟であるサトルが、知らないはずの過去や、未来を予知するような言動を繰り返す。ハルカの同情すべき境遇と、見知らぬ町でなんとかなじもうとする苦労が伝わってくる作品だ。

町ぐるみで高速道路を誘致しようとする。そこには、町だけに存在する隠れたルールがある。得体の知れない恐怖感がおしよせてくるのは、町ぐるみで犯罪行為もいとわない部分だ。町の悲願を達成するためには、邪魔者を排除する。ラストは駆け足で謎が解き明かされ、やけにあっさりとした終わり方となる。

■ストーリー

父が失踪し、母の故郷に引越してきた姉ハルカと弟サトル。弟は急に予知能力を発揮し始め、姉は「タマナヒメ」なる伝説上の女が、この町に実在することを知る―。血の繋がらない姉と弟が、ほろ苦い家族の過去を乗り越えて地方都市のミステリーに迫る。

■感想
引越さきの町でクラスメイトになじもうと必死なハルカ。まず、ハルカの家庭環境は強烈だ。父親は再婚し、新しい母親と弟ができる。かと思うと、父親が会社の金を横領し失踪する。ハルカは肩身の狭い状態のまま、継母と共に新しい生活へとすすんでいく。

微妙な家庭環境がハルカの心を悩ます。そんな状態で、弟のサトルが知らないはずの過去の出来事を話だし、さらには未来の出来事まで予知してしまう。ハルカは予知繋がりから、町に古くから伝わる「タマナヒメ」の伝説を知る。

「タマナヒメ」伝説は現代も続き、繰り返されている。ハルカが経験する町の奇妙な習慣。もっとも衝撃的なのは、高速道路を誘致するために必死になる町の人々たちだ。反対派の集会を開かせないために、フリーマーケットを開いたり。

町ぐるみで熱病に冒されたように目的へ一直線となる。町の犯罪行為と、「タマナヒメ」が目的を達成したあと、必ず自殺することが重なってくる。何か危険なことが行われているとハルカは気づくが確証はない。このあたりのドキドキ感が物語のピークかもしれない。

ラストは一気にすべての謎が解き明かされる。「タマナヒメ」の秘密と、ハルカの親友とも言うべき女生徒の裏切り。恐ろしいまでの計画をハルカが予想し、その通りとなる。すべては仕組まれたものとして、サトルの予知能力についても説明されている。

あまりに駆け足で、それまでの不可解な状況がすべてひとつの目的を達成するためだけに行われたというのは、どうも納得できない。後日談的なものがないのと、ハルカひとりですべてを解明してしまうご都合主義が少し残念な部分かもしれない。

リカーシブルというタイトルほど、繰り返される印象はない。



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