ポイズンドーター・ホーリーマザー  


 2017.3.8      女の執念深い怒りは恐ろしい 【ポイズンドーター・ホーリーマザー】

                     
評価:3
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■ヒトコト感想
どれもが毒のある短編ばかり。女性の他者に対する怒りや妬みのようなものが強烈に伝わってくる。「マイディアレスト」は、妹と差別され続けた姉が爆発する物語だ。物語としては、警察に事情を聞かれる姉の独白から始まる。この時点では、読者は妹になんらかの事件が起きたというのはわかる。ただ姉の言葉が的外れのようだが…。

飼い猫の蚤を潰す描写が気持ち悪く、極め付けは卵をもった蚤を潰す場面だ。それが妊娠した妹と繋がるという、なんとも恐ろしい物語となっている。女性の怒りや妬みはジワジワとくる恐ろしさがある。表題作でもある「ポイズンドーター」と「ホーリーマザー」は、まさに母親と娘との対決のような物語だ。

■ストーリー
女優の藤吉弓香は、故郷で開催される同窓会の誘いを断った。母親に会いたくないのだ。中学生の頃から、自分を思うようにコントロールしようとする母親が原因の頭痛に悩まされてきた。同じ苦しみを抱えた親友からの説得もあって悩んだのだが…。そんな折、「毒親」をテーマにしたトーク番組への出演依頼が届く(「ポイズンドーター」)。

■感想
女性の怒りや妬みというか、男の怒りは相手に暴力という形であらわれるが、女のそれは目に見えない恐ろしさがある。ほぼ全ての短編で何かしら女の怒りのようなものに恐怖を感じてしまう。それが明らかに誰もが分かるような怒りではなく、ジワジワと気づいたら怒りに包まれているといったたぐいのものだ。

常に母親に抑圧され40歳で処女の姉は、自由奔放に育てられた妹に怒りを覚え…。蚤とりが趣味の姉が、妹に激しい怒りを感じた結果…。相当にパンチの利いた作品だ。

「ポイズンドーター」は、母親に押さえつけられ育ったと感じている女優が、その昔年の恨みを晴らすために毒親の告発本を出すという話だ。常に母親に監視され窮屈な生活を送り、母親の小言や、娘のことを思ってやっていますという態度が許せない娘。

タイトルを読んだときに、毒娘というイメージはなかったが、それに気づくのは次の短編である「ホーリーマザー」を読んでからだ。二つの作品は続きものであり、ポイズンドーターのその後をホーリーマザーで描かれている。

毒親と名指しされ告発本まで出された親は、悩み苦しみ…。結果として本当に毒親だったのか、それとも娘が勝手に思い込んでいただけなのかわからない。他者から見たふたりの関係をどう考えるのか。もっとひどい人がいるからと、自分は我慢すべきか、それとも気にせず自分の感覚を信じるのか。

母親と娘というのは仲の良いイメージがあったが、一度こじれると取り返しのつかないほど根深い遺恨となるのだろう。他人の母親の方がお互い気を使うのでうまくいく、というのは妙に納得できた。

女の執念深い怒りは恐ろしい



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